13話 魔女デート
そっけなく、堅っ苦しく書けてると良いのですけど……。
翌朝、金貨3枚分買取後、買取品のチェックと手入れ、整理をハイネ先輩と取り組んでいた。
「クーネルさん、届いた革全て伸ばし終わりました。トリミング始めますね。」
ひとまず革を再度伸ばす必要があるため台座に端を固定し引っ張るようにして均等に伸ばしていく。
その後はトリミングというなの削り作業、毛穴やら細かい毛やらが残っていると見栄えが悪く商品価値的にあまりよろしくない。
やすりがけを行い整えていく。
仕上げにオイルを塗れば今すぐ加工可能な革の完成である。
「後はムーティアにいる革を取り扱っている職人5件に販促かけるだけですね。」
朝一に取りに向かい全て終わった頃には昼過ぎである。
この作業だけで午前が終わってしまっているため急いでこれを売り捌き明日の革を買うための資金作りに移らなければならない。
「クーネルさん、ひとまず昼食取りにいきましょうか。」
このままぶっ通しで販促に向かいたいが腹が減っては戦はできぬということで食べに行くことにした。ギルドを出ると見覚えある人がそこにいた。
「どうもヘリヤさん。どうかされましたか?」
ギルド前に居たのはヘリヤ・コーネリアだった。
「昼どこにしようか彷徨ってたとこっす。今からお昼なら一緒にどうっすか?」
断る理由もないので応じる。
「良いですけど昼の業務も差し迫っているのであまり長居はできないですけどいいですか?」
「勿論っす。私もこの後森に入らないといけないっすからお互い様っすね。」
「お久しぶりです。同伴いたします。」
「はいっす。」
3人で入った店はムーティアに来てから通っている大衆食堂である。
「ミネストルコフィとパン2つ、ヘリヤさんは何にされます?」
迷わず自分とハイネ先輩の分を頼むとヘリヤは戸惑う様相の後に同じのを頼むことになった。
「お二人ともここによく来てる感じっすか?」
「ムーティア到着翌日から今のところ毎日通ってますね。」
「ここのミネストルコフィは1週間限定らしいんですけど味わい深くなぜかその後とても脳がスッキリするんですよね。」
「頭使う都合上スッキリするに越したことないですよね。」
いつの間にかハイネ先輩もだいぶ緊張を見せなくなっている。
「はへぇ……あ、来たっすね。赤い……果実?入りスープ……見たことない料理っすね。」
ヘリヤが興味を見せてる間にパンをスープに浸し口へ放り込み追いかけるようにスープを口に運ぶ。
「先輩はこのまま北側3軒頼みます。私は南側2軒回るので……ひとまず連日取引できる事と革の種類をこちらが提示していつどれだけ購入するのか、できるのかを中心に商談しましょう。最悪ギルドに任せる方針で……その後は肉をサーベイスギルドに売れば最低限どうにかなるでしょう。」
速やかに食した後ヘリヤそっちのけで打ち合わせ始める。
「承知いたしました。」
「え、もう食べ終わったっすか。」
「えぇヘリヤさん味どうですか?」
「えっと……複雑な味わいっすね。甘いけどどこかスパイシーで……どこか酸味もあって……不思議な味っすね。」
好きではないが嫌いな味とも言えないような反応である。
「ヘリヤさんはここに来て変化とかありました?」
「そうっすね……気になる人ができたことっすかね……。」
意味深な表情をこちらに向けてくる。
「……えっとそれは仕事関係で?それとも恋愛的な?」
満面の笑みへと変わり放つ言葉は答えではなかった。
「想像に任せるっす。」
気不味さを紛らわせるように会計を済ませて退店した。
その後の商談もうまく取りまとまり明日取引する分の金貨も手に入った。
先輩と2人でギルドに向かうとまた顔見知りがそこにはいた。
「フォンナさん……お疲れ様です。買い物ですか?」
ギルド内に居る時点で買い物以外なさそうでありそのまま尋ねた。
「やぁクーネル。ちょっと付き合ってくれない?」
「……良いですけど少々お待ち下さい。先輩、これらの記帳作業進めておいてもらっていいですか?明日は金貨4枚分を買い取る予定です。昨日時点でかなりあったので多分確保可能なので取引店舗と取引数もあらかじめ割り振っておいてください。品目は……均等に納入とは言ってあるので被ってないやつから割り振れば後は私がやります。」
「承知いたしました。お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。」
デスクへ向かうハイネ先輩を見送り来客者へ対応する。
「……それでお求めは?」
「服を買いに来た。後……髪留めも。」
フォンナは髪を触りながら伝えてきたのでひとまず装飾品のコーナーへ案内する。
「髪留めですとここからこの辺までですね……職人の都合上品数少なくてご覧の有様です。」
両手で数える程度しか種類がない。
「……好みはないわね。どう?似合う?」
ムーティア独特の装飾はどこかの民族的な装飾であり万民受けしなさそうな感じであり実際似合ってるとは言えなかった。
「……あまり似合いませんね。服次第でワンチャンスあるかなくらいですかね。」
「それもそうね。服はあそこかしら?」
指さす方向は下着コーナーだった。
ちなみに服コーナーは背後である。
「服反対側ですよ。」
「いいのいいの下着もいるし。」
来客対応として席外す訳にもいかないのでついていく。
「肌触り変わってるわね……スースーしないのかしら?」
女性の下着の感想訊かれても分野外なのでこれこれこうですとは回答できない。
なので気候から話すことにした。
「それはここの気候に合わせられてますね。ここは年中通して湿度高いので通気性悪いと蒸れます。むしろこれくらいの通気性はあるべきかなと……。」
「あーそういうことか……。」
どうやら心当たりはあったようだ。
「同じのを四つ買う。」
手渡された商品を受け取り今度こそ服コーナーへ向かった。
そこで始まるは試着大会である。
民族衣装風の奇抜な柄から黒を基調とした質素なワンピースまで結構な数を試す。
その間に髪留めもいくつか試着してみたがどれも満足いかなかったようである。
「品揃え少ない……。」
不満気な様子だが無理もない。
何せここは南の僻地ムーティア、王都とは職人の数が違いすぎる。
「必要でしたら王都から取り寄せることも可能ですよ。無論オーダーメイドも受け付けております。」
「本当か……。オーダーメイド頼む相談に乗れ。」
即断即決、迷いがなかった。
「どのような服になさいますか?」
「そうだな……。」
わざとらしく考える素振りをした後にこっちに顔だけ向けて意味深な笑みを残す。
「デートで着れる大人っぽい色合いの服を所望する。」
フォンナがデートというと……。
「あぁライナスとのデートですか。」
どすっと鈍い音と痛覚がお尻から伝わってきた。
「この朴念仁め! 誰が嫌いなやつとデートなんかいくか! 」
政略婚全否定ムーブとはいえとばっちり感が否めない。
「では誰と……。」
俺はこの言葉を言ってはいけなかった気がする。
不倫を促すと同義なのもそうだがいきなり胸ぐらを掴まれた瞬間に察した。
「そうだな……君くらいなら誘われれば応じるよ。」
友達の婚約者相手にそんなセリフを吐かれても返答に困る。
「……お食事くらいなら付き合いますよ。」
精一杯の返事がこれである。
「そうか。言質は取ったからな?」
ようやく掴まれた手から解放されオーダーメイドの相談が進んでいった。
依頼書の受け取り後事務手続きを済ませてハイネ先輩の所へ戻ると品目の振り分けも被ってる素材のみとなった。
「やはりファーファーラットの毛皮人気ですね。」
持ってきた毛皮は100枚、そのうち30枚は既に売りもう30枚も明日売ることが決まってる状態である。
「ここで継続的な商売するなら定期便で輸送はありですね。ひとまず需要の全体像をこの5日で把握しましょうか。」
王宮魔法師団と合わせるのが吉だろう。
今革を買い取っているのはあくまで資金集めのため、資金集めが終われば彼らはわざわざ皮をとり革を生産する必要がないのだから。
「となると……明日の注文と売り上げ状況聞いてからですかね。」
「ですね。あぁ後建築士も明日から探しましょう。出ないと間に合わないです。」
既に金貨7枚分は売り上げで確保済みのため必要な金貨は後1枚、次の仕事にも取り掛かる必要がある。
「ではクーネルさんが商品買取に行ってる間探しておきますね。条件は?」
「口が堅く、実績があり、多少魔法について素質のある方探してください。」
かなり厳しい条件である。
「それはなんとも……ムーティアにそんな人材いるんですか?」
それについてはなんとも言えないが最終手段がないことにはない。
「居ないなら私が代わりを担う他ないですね。」
卒業前からいくつかの資格を確保しており建築士として必要な資格も確保済みである。
「……それ使えるなら最初からすれば……。」
ハイネ先輩から突っ込まれるが正直忙しくてそれどころじゃない。
「今忙しいのに設計施工手伝わないといけないのはかなりハードですよ? その分の仕事も先輩に振らないといけないですし。」
実際ブラック企業どころの騒ぎではない。
「それもそうですね。」
「最低限口が堅く、実績あればいいです。」
魔法の観点は素質はないが教養のある自分が補えばいい話でもある。
業務も一旦終わり帰路に着くと見覚えのある人とばったり出会した。
「パイルさん、夜遅くに徘徊ですか?」
「えぇ今日もう仕事ないから一杯やろうかなと……一緒にどうかしら? 」
今日はやけに王宮魔法師団と街で出会うものである。
「良いですけど店に目星ついてるんですか?」
お酒とか飲んでる暇も無かったためその手の店はあまり詳しくない。
「えぇモーリアスがこの街を治めてる貴族でね。彼から色々聞いてあるわ。」
ヘリヤと違い下調べ済みのようだ。
モーリアス・ムーティア、第一陣小隊の隊員ということしか知らないが名字的に察してはいた。
「そうですか。どちらにあるんですか?」
パイルに案内された店は鼻に刺さるような癖のある香水の漂うバーだった。
「変わったお店ですね。」
「品揃えがいいらしいわ。」
2人相席で座るとひとまずおすすめを聞くことにした。
「……ではそれを2つ。とそれに合うつまみを二皿。」
出てきた果実酒で乾杯する。
「「乾杯。」」
ドロっとした果実酒を飲むと酸味の効いたジュースといった味わいである。
「これってドゥクドゥですかね?」
酸味のある南の果実はグレープフルーツ感あると言われるドゥクドゥかパイナップルのような味わいのナーナスの2択である。
ちなみにどちらも味わったことはない。
「お、兄ちゃんここで見ない顔だが博識か?」
「当てずっぽうだったんですけど……。」
「へぇ流石首席といったところかしら?」
絶妙な気不味さを覚える。
「というか街に来るなんて珍しいですね。」
今日だけで3人も街で遭遇してる。
彼らは普段外で業務をこなしてるはずだし街中で出会う確率なんてかなり低いはずだ。
「あらきたらダメかしら?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ尋ねてくるがそんなつもりで言ったわけではないため否定する。
「いえ、そういうわけじゃないですけど今日街でヘリヤさんとフォンナさんと出会いましてね。あなたで3人目、珍しいなと……。」
何か知ってそうな表情だがいまいち読み取れない。
「そう、彼女らと何したの?」
「何……と言われてもヘリヤさんとは食事、フォンナさんはギルドに買い物に来られてましてそれの付き添いですね。」
「ふーん……。」
意味深な頷き、流石にこれは何かあると察する。
「待って下さい、3人でなんか企んでますか?」
「どうかなぁ……わたしたちは国に飼われた魔女よ?多少の悪巧みくらいはするよね……。例えば摘み食いとか……。」
わざわざ二皿頼んだのにわざとらしく俺の方から摘み食いし始める。
その不気味な笑みに少し寒気がした。
「前みたいに首絞め尋問みたいなのは辞めてください。命がいくつあっても持たないです。」
その後お酒はどんどん進み次第にだる絡みするようになった。
「で君は私たちの誰が好みなのよぉ〜。」
だる絡みしてるあたり完全に酔っ払いだ。
この時点で入店から既に1時間半、流石にこれ以上長居すると面倒事に巻き込まれそうなのでパイルを連れて会計を済ませることにした。
「パイルさんもう帰りますよ。あなた身分的にここに居て良い人じゃないでしょう。ほら帰りますよ。」
「やだおんぶ。」
良い大人が何要求してるのだか酔っ払いとは怖いものである。
俺の倍飲んだだけはあるなと察し要求に応えることにした。
日頃商談のため歩き回る機会が多いこともあり肉付きにはそれなりの自信はある。
当然女性1人背負って歩くくらい訳ないのだが周りの視線だけはどうにもならない。
幸いなのは夜遅いので通行人が少ないことだろう。
結局約3キロほどおぶさり王宮魔法師団の仮拠点まで歩く羽目にあった。
降ろすとさっきまでのだる絡みしていた酔っ払いとは別人のようにスッキリした顔立ちでこちらを見ていた。
「……どうだった?」
酔っ払いは演技だったようである。
「一般女性の体重と同等でしたね。」
「ちょっと失礼よ少し軽いです。そうじゃなくて胸の感触……背中で満喫できたかしら?」
揶揄ってこられても反応に困る。
善意でここまで運んだ末、聞かれた内容が内容である。
「あなた貴族でしたよね?淑女がそんなはしたないこと聞いていいんですか?」
酒が入ってることもあり半分投げやりで返答した。
「つまんなーい。それじゃあまたね今度もお願いするからその時感想聞かせてくれるかしら。」
これは答えるまでは逃してはくれなさそうである。
誤字等ありましたらご協力よろしくお願いします。