12話 女子会と悪巧み
どなたか存じませんがブックマークありがとうございます。
本作では初で嬉しいですね。
まだ1章すら終わってないので末永くよろしくお願いします。(全5章予定)
「では鞣す魔女会と題しまして……はい、作業分担の時間です。」
ベスティが音頭を取りそれぞれの役割を指定する。
俺とパイル・セネドラが魔法陣の写実する係、ヘリヤ・コーネリアとフォンナ・ボーティが洗浄係、ベスティは本を読み指示しながら魔法で植物を圧縮しタンニン作成を並行して行っている。
「え、これ魔法なしだと2週間もかかるの!?」
本を読み進めてる最中で気がついたらしく尋ねてきた。
「そのための魔法陣でしょう? まぁこの手のやつは使い捨てだからアホみたいに写実していく必要ありますけどね。」
現在15枚目である。
目の前の山は……軽く3桁はありそうだ。
「というかクーネルさんって魔法使えないけど魔法陣周りの知識はちゃんとあるんですね。」
ちらっと隣のパイルを見ると既に20枚近く描き上げている。
「まぁアウスガルド学院の必修単位に含まれてましたからね。魔法は苦手ですが知識としては詰め込みました。」
だから今描いてる魔法陣が何の魔法か理解できる。
今描いているのは液体ごと内容物を圧縮する魔法だった。
パイルが描いてるのは中の滅菌と特定の組織構造を破壊する魔法陣で自分が描いてるやつより少し複雑だ。
ここで少し冷静になった。
「あれ?なんで俺ここで働かせられてるんですか……。」
「まぁまぁ女の空間に混ざれる対価よ。安いでしょう?」
……まぁ個人的に今すぐやらなければならないことも無くなりはした……。
「そうだそうだ。断れば不法侵入罪で訴える。」
……それだと俺の意思決定権は無さそうである。
「まぁ何でもいいですよ。1週間で金貨8枚はまぁ相当きついですし。」
「え、いけるの?」
なぜかベスティが驚きの声を上げる。
「え、待って1週間って聞いてないけど……。」
「おい相談しろ。」
「初耳っすねぇ。」
一気に空気が冷え込みベスティの方をみた。
「だってだって……あー待って話せないね。」
「口滑らせてたら処罰下してたよ。」
「ベスちゃん時折り危ういわよねぇ。」
「要注意っすよ。」
1週間には何やら理由があるようだ。
まぁ察しはつくが……。
「なるほど大臣の出立時期隠す必要があるんでしたね。」
「半分正解。守秘義務破れば即、罰する。」
他言無用ですね知ってます。
「半分ですか……。まぁ当てたところで何もないので邪推はこの程度にしますか……王宮魔法師団のお膝元ですと命幾つあっても足りなさそうですし。」
森と山で隔絶された僻地のムーティアに支部を置こうとしてる時点で色々と邪推可能である。
「えっと渋汁用意できました。浸して魔法陣発動させればいいのかな??」
1番最初に作業終わらせたのはベスティだった。
彼女は1つ勘違いしてるのでそれを阻止するために口を開いた。
「それファーファーラットの毛皮だよね?それは革よりも毛皮としての価値が高い。
だから塩を香油または水に溶かして揉み洗いして脂肪分とかを綺麗に洗い流す必要があります。」
「はへぇ皮によって違うっすか?」
「この2種類の魔法陣もそれぞれ別の革作るようですね。
こっちがハードな革の魔法陣、こっちがしなやかさのある革の魔法陣です。
ジャウダイルなんかの水生類の皮はしなやかな方で、獣類の皮はハードは方で加工しましょう。」
「ベスティ! なんか深めの大きい器持ってこい! 圧力に耐えうる奴で! 」
フォンナの掛け声と同時に部屋を飛び出していくベスティ、それらを見送った3人は息を揃えて聞いてきた。
「で、クーネルさんの好みの異性ってどういうタイプですか?」
「気になるっす。」
「ベス戻ってくる前に語れ。」
唐突に恋愛観話せとは無茶振りもいいところだ。
「裏表少ない人の方がいいですね。」
「他には?」
「優しい人?」
「ありきたり過ぎる。次。」
「……多少知的な人がいいです。」
「うーんじゃあ私無理っすね。」
「待って1人当てはまる人いるくね?」
「うーん居ますねぇ。」
「ぶっちゃけベスティのことどう見てるっすか?」
弾丸トークで気がつけば全員の作業する手が止まっていた。
「どう……というか誰かをまだ恋愛対象としてみたことも考えたこともないですね……。」
これに関しては嘘偽りない事実である。
ベスティが恋愛対象云々以前に前世も含め未だ、誰1人として異性をそういう視点で見たことがないのだ。
こればかりは前世の力もクソもなかった。
「……なんだこの朴念仁、縛首でいいか?」
フォンナがしれっと恐ろしい発言をする。
「殺さない程度なら良いと思いますよ。」
「では入り口は固めておくっす。」
ドアや窓が部屋の空気と一緒に一瞬で凍りつく。
「え、待って味方いない。ちょ、待ってください。何かの……冗談ですよね?」
首に魔力の塊が巻き付き軽々持ち上げられる。
徐々に狭まっていき冗談など何一つないことを察した。
ドンドンドン……どさっ
扉を叩く音がなり俺は地面に叩きつけられていた。
「先輩! なんで私の部屋の扉氷つかせてるんですか!」
どうやら外からでも氷が張っていることがわかったようである。
「すまんちょっと尋問してた。」
フォンナがそう言うと凍り付かせた張本人のヘリヤが素早く溶かした。
部屋の中には倒れた俺を囲む魔女3人、酷い絵面である。
「ちょっと大丈夫? 尋問するようなことないでしょう。先程の邪推の件ならこの人から積極的に誰かに漏らすなんてあり得ないので大丈夫です。」
「みたいだな。こいつ相当重症の朴念仁だった。」
「アピール足りてないわよ〜。」
「いやこれそう言う話ではなくないっすか?」
「私が居ない間に何の話してたんですか?」
「守秘義務がある。すまんなベスティ。」
フォンナが話を無理矢理打ち切り作業を再開させた。
「渋汁を〜鉄鍋に〜ぶち込んで〜♪皮も〜ぶち込んで〜まぜまぜ〜♪」
ベスティがノリノリで何か歌っているが何の曲か全くわからない。
「魔法陣の〜紙を〜浮かべて〜……発動!」
1人だけ超ノリノリなまま魔法を発動させた。
それ以外の3人は黙々と自身の作業を進めている。
1時間もすると魔法陣の魔法は自動的に終了した。
その間に個人個人がやっていた作業も終わりを迎え4人全員が魔法陣を発動させている。
「結構魔力持っていかれた。何十回もできないわよこれ。」
それはそれはこっちとしては好都合ではある。
「大丈夫。クラウドが見回りから帰ってきたら魔力タンクとして馬車馬のように働かせれば回数稼げる。」
あの……フォンナさん……男性に対して加減覚えて貰っていいですか……。
「そうねぇ休息入った他の団員も呼びましょうか。」
パイルもノリノリであらせられた。
ここで言おうか迷ったが使い道の一つや二つ、見出してこそ商人、このままやらせることにする。
「よし。渋汁奥まで染み込んだはず!後は拭き取って〜乾かして〜。」
「はい。その皮の動物は?」
「あ、ファーファーラット……。何で教えてくれないのぉ〜。」
「次、裏面見て。」
「うわデロンデロン……何これ……。」
「フラッシング作業、本に書いてありましたよね?皮裏擦り伸ばしましたか?」
「ちょっとわざと黙ってたの!?」
「次、毛のまま渋汁に漬けましたね?
それだと毛もボロボロかつバサついて製品として扱いにくいです。」
「……。」
昔、彼女の悪い癖の1つに問題文をしっかり読まずに解き始めることがあった。
要点だけ読み解けばしっかり読まずとも良いのだが要点すら読み飛ばして解き始め結果的に引っ掛けに引っ掛かる凡ミスを咎めるには間違いを放置させ一つ一つ指摘するのが1番効果的だった。
今回もそれである。
「まぁその失敗の商売的価値を見出すのは商人の役目です。使った皮は3枚でしたよね?
その3枚だけ1割引きで買い取りますよ。」
ちなみに本来なら適した処置の鞣した革の半額以下になるところである。
「待って私たちのは?」
「おい早く言えよ。」
「皮無駄遣いっす。やばいっすよこれ。」
その3人は自分が手渡してある。
勿論正しい処置をして。
「そっちは私がやっておきました。あくまでベスティの方だけ指導として黙認してました。」
「この朴念仁、やり手か?」
「抜け目ないわねぇ。」
「た、確かに渡されてたっすけど……。」
「……。」
ベスティの沈黙が少し痛い。
「これでもう間違えないだろう?責任者……。」
わからないのでもう一回釘を刺すとフォンナから横腹を思いっきり殴られた。
「この朴念仁!」
ベスティへの釘刺しはやりすぎたようである。
その後の作業はベスティに代わり、俺が一通り教えた。
「……これで一通り大丈夫そうですね。
これにて私は帰宅させていただきます。」
「……え、あ、私送ってきます。」
俺が立ち上がると考え込むかのように黙り込んでいたベスティが立ち上がり見送りにきてくれた。
「それじゃあベスティ、また明日。」
「うん。また明日。」
2人が仮拠点入り口へ向かうため部屋から出ると魔女3人は話し合う。
「なぁあの朴念仁私たち3人で全力で落としにいかないか?」
真っ先に口開いたのはフォンナだ。
「……その心は?」
「いやさ朴念仁を変えさせねぇとベスが不憫でならねぇ。」
「そうっすけど落としきったらベスティに気が向かないのでは?」
「振ればいいだろ。」
「賛成〜私はやるわ。」
「え、じゃあうちもやるっす。」
「うし各自、自由時間中に行動すること。やるぞ。」
2人の知らないところで計画が立案されるのだった。
誤字等ございましたらご協力よろしくお願いします。
皮と革で気が狂いそうでした。