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日常の詩  作者: C07
6/9

06【盲目な少年】

人は生まれながらにして平等ではない。


頭のいい者、運動神経が優れている者、

容姿が優れている者、裕福な者、人を魅了する者。

そして、それに反する者たち。


生まれながらにしてそれぞれがそれぞれの役割を持ち、

人生を歩んでいく。

そして、それは生涯を通して変わることはない。

運動神経の無い者は、どれだけ努力しようと運動神経の優れた者を越えることはない。

貧乏な人がどれだけ努力しようと、もとより裕福な人と同じ地位にたつことはない。

それぞれの役者の枠は既に決まっていて、

生まれたときに配役が決まる。


僕の役割は最もシンプルなものだ。

『日当を生きる人達が日当にいることを自覚させる』

ただ、それだけだ。


白まだらの青空と、灰の街並みの間にある場所

母の見舞いを終えた後、僕は必ずここに来る

ここにいると、僕は全てを忘れることができる

家での喧騒

学校での軽蔑

病院での憂鬱

灰色の地面に寝転びながら

僕はむげんに広がる青色を眺める


医者から母の余命を聞いた

もとより長くないことは知っていた

だから医者の話を聞いても、僕は特に驚かなかった

病院の屋上で空を見上げる

瞳から流れるべきものは、何一つ流れない

視界を横切る1羽の鳥に

僕は無意味に手を伸ばした

いつまでこの、無様な役割を続けるのだろうか


通路の途中で少女が倒れていた

時折見かけるその光景を

僕はいつものように通り過ぎる

彼女が何故倒れているのか

彼女が何故立ち上がらないのか

そんなことは、僕にとってはどうでもいいこと

あの光景に手を出す人は

この世の中にはいない


いつも通りの見舞いの後

僕は病院の屋上の地面に転がった

青色の空に1本の白い線が伸びていく

それは空を飛ぶ無機質な足跡

人が願った憧れの跡

人が望んだ夢の後

人が作った努力の痕

伸ばした手とそれを比較して

僕はボソリと呟いた

「羨ましい」


ある日、母が亡くなった

驚くことのない、余命通りの命日

僕は病院の屋上で青空を眺めた

いつもと変わらない広い青色

いつもと変わらない冷たい地面

また僕の役割が1つ消えた

さようなら、

次はもっといい役割が与えられますように


通路の途中で少女が倒れていた

時折見かけるその光景を

僕はいつものように通り過ぎる

「どうして……」

呟きにも満たない微かな声が、僕の足を止めさせる

苦痛に藻掻くその声は、苦悩に嘆くその声は

どこか懐かしいものだった

気づくと僕は、少女の体をそっと起こし

自分の背中に担いでいた

軽くてふわふわしたその体を

僕はベッドまで運んでいく

どうして、僕はこんなことを?


ある日、医者から少女の面会をお願いされた

意味がわからない

医者がそんなお願いをした理由も

僕がそれを了承した理由も

目の前にいる盲目な少女の掌に

僕はそっと手を重ねる

冷えた手の甲が僕の温度を奪っていく

しかしそれと同時に僕の中に何かが流れ込んでくる

冷たいはずなのに、温かい何か


楽しげな声が響き渡る

五月蝿いほどに騒がしいそれは

1人の少女から発せられる声

当たり前の事をなぜ何故と聞く無知な少女の声

正直言って鬱陶しい

でも、どうしてだろう

不思議と楽しくなってくる




少女の声が一段と騒がしい

聴けばもうすぐ目が見えるようになるらしい

ベッドの上で飛び跳ねる少女を

僕は落ち着くようになだめる

これは少女の新しいスタート

ここからが少女の人生の始まり

暗闇しか無かった人生に初めて光が訪れる瞬間

「よかったな」

そう言う俺を少女は何故か不思議そうに見つめた


病院の屋上で僕は空を眺めていた

少女はもうすぐこの景色を目にするのだろう

友達ができて、恋人ができて、

この空の下を駆け回るのだろう

この空をかけ巡るのだろう

僕の目を焼く陽の光が雲によって遮られる

「やっぱりそうだよな」

日陰になった地面の中で、

僕はボソリと呟いた


「僕はもう彼女には会わない

もともと合う義務なければ義理もない

慈善事業で付き合ってただけだ」

手術後の面会をお願いする医者に僕はそう言った

医者は懸命に説得しようとしていた

医者は執拗に理由を聞いていた

そんなこと、少女の事を考えれば直ぐにわかるはずだ

声を上げる医者を背に、僕はロビーへと向かった


雲が作る焦げ茶色の地面の上で

僕はふと病院の1室に目をやった

そこはかつて言葉を交わした少女の部屋

そこはこれから明るい世界に飛び立つ小鳥の巣

そんな彼女に地面に転がる石はいらない

そんな少女に暗い雲は必要ない


曇った日陰の中、僕はゆっくりと病院を後にする

もうこの病院に来ることは無い

もう青空を目にすることもない

暗い日陰を這う役割を担う僕は

日当を駆ける役割を担う人に触れてはいけない

だから、


さようなら、あなたが担う役割が、あなたを幸せに導いてくれますように

なんなの、なんなの、なんなの!

あの人一体どこに行ったの!


やっと会えると思ったのに!

やっとお礼が言えると思ったのに!


もういい!感謝とか感動とかどうでもいい!

絶対にとっ捕まえて、一発引っぱたいてやる!

首輪を付けて私から離れないようにしてやる!


まぁでもある意味感謝なのかも、

これからどうしようとか考えなくてすんだもの!……

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