【第8話:妙なおもちゃ】
(´・ω・) いぢめる?
「……カリバ、それ面白いな。木の皿があんなに飛ぶなんて思わなかったぜ」
誰も来ない門番の時間が半分ほど過ぎたころ、童と共に笑いながら戻ってきたカリバに言った。
「そうか? これ、おさらちがう。フリスビイ。こどものおもちゃ。いぬもあそぶ」
犬が遊ぶ? 犬って遊ぶのか?
「やってみる。おい、ブランカ? これであそぶ! そーーーれ、とってこーーーーい!」
カリバが斜め上にフリスビを投げた。ふわりと高く飛び上がったフリスビは………そのまま何事も無く地に落ちた。
ブランカは動きを止めたカリバを細い目で見上げたまま隣りに座っている。
フリスビは童共が我先にと追いかけて奪い合いになっている。あ、帰ってきた。
「あーーもう、なんでとってこない? おまえかしこい! もいっかいやる! ほら、とってこーーーい!」
カリバがフリスビを受け取ってもう一度投げた。高く宙を舞うフリスビ。追いかける童。
今度は一番足の速い少年が跳び上がってフリスビを捕まえてそのまま駆けて戻ってきた、輝くような笑顔で。
ブランカは座ったままそっぽを向いている。
「あああああっ、ブランカ! おれバカにしてる!? リウロにおまえのいいとこみせたかったのに!」
ブランカは大きなあくびをして見せた。
「わかったわかった。ホントは犬が走っていってフリスビを捕まえて戻ってくる遊びなんだな。よくわかったよ」
「うーーーはずかしい。ブランカほんとはバカなのか……?」
ブランカは賢い。犬にバカにされてるんだよ、お前。
「ところで、そういうおもちゃってフリスビだけなのか? 回転して飛んだりするやつは」
「んん? …なげるやつほかにもある。ブーメランとか。ボーラとか」
「良かったら教えてくれよ。誰も来ないからヒマなんだよ門番は」
「わかった。どこかもらっていい、き、あるか? かたくて、まがってるの」
里の炊事場の側に冬用の薪小屋がある。そこにならいくらでもあるだろう。
「わかった。つくってくるからまってて」
次の遊びが始まると目を輝かせた童共に囲まれて、カリバは追い立てられるように薪小屋に歩いていった。
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「リウロ、できたよ」
一刻ほど薪小屋の方でわいわいやっていたカリバ達が戻ってきた。
見ると童共とカリバの手には木でできた…曲がったナイフ?みたいなものと細ひもが通された綺麗な石みたいなもの…おいおいアイツまたそんな妙な石をどこから出してきた?
ひも付きの石は三つ束になって手にぶら下げられている。
童の何人かが同じような物を持っているということは、作っているうちに俺も私もとねだられたのだろう。
「これ、ブーメラン。うまくなげるともどってくる。もともとおれとちがうくにのぶき。いまはおもちゃ」
は? 投げたものが戻ってくる? 武器?
「おれ、あまりうまくないけど…やってみる」
揃って門前に出ると、カリバは皆と少し離れた場所でブーメランを構えた。今度は頭の横に掲げるように。
「そっちにとんでったらにげてね。じゃ、いくよ」
何か恐ろしいことを言ったような気がしたが、カリバは縦に構えたブーメランを、宙を引っ掻くように手首のしなりを活かして…前方に投げた。
シュルルルルルルルル……
ブーメランは音を立てて斜めに回転しながら勢いよくすっ飛んでいく……おおおおおおおおおおおおおっっ!? 曲がってる! まるで低く飛ぶ鳥が曲がるように滑らかに! 宙を滑るように曲がって浮き上がって……回転しながら戻ってきたああああああああ!??
バサッ!
宙を右から大きく一周するように飛んだブーメランは、カリバの左前方に刺さるように落ちた。
「…よかった、うまくいった」
カリバがほっとしたように振り向いた。
「「「「「「「うわああああああああっ!」」」」」」」
俺と童共の歓声が噴き出した。童共が落ちたブーメランに向かって駆けていく。
ブランカは俺の横でぽかんと口を開けていた。
すげえ! なんだこれ! まるで鳥のように飛んで戻ってきた! こんなの生まれて一度だって見たこと無い!
里の腕自慢の『弓使い』や『槍使い』の男衆だって、真っ直ぐ遠くまで放って的に当てることならできる。しかしこんな生き物みたいな動きで放ったものが戻ってくるなんて。
「ブーメラン、なげるのむずかしい。けど、うまいひと、じぶんでうけとめる。こうやって」
童から受け取ったブーメランをふわっと目の前に放り上げると、カリバは両手でぱちんと手を打つように挟んで受け止めた。
「しらはどり、ね。ゆびでうけるとけがする。つよいとゆびおれるから、こうやっちゃダメ」
もう一度目の前に放りだしたブーメランを、今度は片手で浮いた棒を握るように捕まえ、るふりをして痛そうな動きでぽとりと落とした。
「「「「「「おおー」」」」」」
最後まで回転してたもんな、まともに受けたらケガするのは分かる。そうか、挟み込めば打たれない。なんでそんなことまで知ってるんだ? 凄いなカリバ。
「つぎ、ボーラやる。リウロ、やりかして」
短槍を受け取ったカリバは十メテレほど離れたところに突き立てて戻ってきた。
「ボーラ、もともとえものとるどうぐ。これもおれうまくない。でもやってみる」
突っ立って肘を曲げた手からボーラがぶら下がっている。腰から膝下くらいの長さの三本のひもに色違いの石が一つずつ。三本のひもは手元で結ばれ一つになっている。簡単な造りだが、今度はどんな動きを見せるのだろう。
カリバが石投げをするように構えた。
ひもの結び目を握って、三つの石がだらりと下がって…腕を大きく振るって頭の上で緩めにぶうんと一回転、二回転、これだけで振り回されるひもは軽く唸りを上げ…放った!
頭上の回転は緩やかに見えたが飛んだ石は予想以上に速く、三つの石が広がり回転しながらすっ飛んで短槍に絡んだ。
と思った瞬間にさらに速度を上げてヒュルンと音を立てて巻き付いた。
短槍が勢いでパタリと倒れる。
「「「「「「「おおーーーーーー!」」」」」」」
ブーメランの時よりは小さめだが、驚嘆の声が噴き出す。
こんなものも初めて見た。簡単な造りなのに三本のひもが大きく広がりながら回転し、的にしっかり絡みつく。面白い!
童共が短槍とボーラを拾って持ってきた。ひもはしっかり槍に巻き付いて、獣だったら足を取られて逃げられなくなるのは確実だ。
カリバが巻き付いたひもを丁寧に外して槍を俺に返した。
童共に向かって声を掛ける。
「どっちもあたったら、ケガする。ひとのほうなげるの、ダメ! ひといないの、たしかめて、じゅんばんにあそぶ」
童共がわあっと声を上げて手に手にブーメランとボーラを持って散らばっていく。俺の短槍も的代わりにまた持って行かれてしまった。門前には俺とカリバとブランカだけだ。
「リウロ、これ」
カリバが持っていたブーメランとボーラを俺にくれた。童共が持っていた物よりも大きく長い、たぶん大人用だ。
「おう、くれるのか? 悪いな」
「いい。リウロ、おれのせわしてくれる、おれい。それと…もうひとつ」
上衣の背中の内側に隠していたものを出して見せた。
なんだこれ? 細木の枝みたいな形の……木のナイフ?
「これ、アフリカなげナイフ。おもちゃじゃない、ぶき。こどもにわたすの、アブナイ」
枝状の形をした妙なナイフはブーメランよりも分厚く、確かに刃になる枝部分は鋭く尖っている。木の幹に当たる部分が柄なのだろう。その部分だけは角が削られて滑らかにされていた。
「これ、ブーメランみたいに、なげる。とんでく。おもくてかたいきで、つくったから、えものにささる。きれる。ほんとは、てつのぶき」
「へぇ……」
アフリカ投げナイフを受け取る。鉄のナイフほどでは無いがしっかりした重さがある。
「ただ、まっすぐとぶだけ。まげるの、すごくむずかしい、はず。おれ、しってるだけ。なげたことない」
「投げたこと無い、って…。何でやったことないのに知ってるんだよ?」
「まんがにかいてた。ク▼イ▼グフ▼ーマン」
!? 何だ? ワケわかんない言葉が聞こえたが、カリバの里の言葉なのか?
「ブーメランも、てつだと、ゆびきれる。とれる。▼ッド▼ック▼ツー」
「お前ホントはすっげえアブナイヤツだろ!?」
「だいじょうぶ! きだと、ただのおもちゃ。てつのわでチャクラム、くびまではねる」
「うわあああああああああ!!?」
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……結局、門番の間中カリバとガキ共に付き合わされてしまった。
ボーラの的が足りないと泣き付かれて門から少し逸れたところに胸の高さほどの杭を三本立ててやる。
上手く飛ばせないと泣き付かれてブーメランとボーラの投げ方をカリバと一緒に教えてやる。
絡んだひもがほどけないと泣き付かれて解いてやる。
ただ飛ばすだけだと面白くないと泣き付かれ、更に杭を三本打ち込んで、ブーメランの的になる木っ端を上に載せてやる。
杭に当たったブーメランが折れたと鳴き喚く子を宥め、カリバと一緒に新しいのを削ってやる。
そんなことをしているうちにすっかり門番交代の時間になってしまっていた。
「リウロ…いくら誰も来なくてヒマだからって、ちったあ真面目にやったらどうなんだよ?」
「そりゃないっすよジョンさん!?」
交代の男と一緒に俺達の様子を見に来たジョンさんに、またきついことを言われた。
「確かにガキ共に気を取られてはいましたけど、こんな草っ原、どっからよそ者が歩いてきたってちゃんと分かりますって! 見張りだってちゃんとやってましたって!」
「ほーう、それにしちゃあずいぶんと棒投げひも投げ遊びが上手くなったじゃねえかよ」
「ぐっ…」
実のところ、ガキ共にかまってるうちにカリバよりも俺が一番ブーメランとボーラの扱いが上手くなってしまっていた。
ジョンさんにも、ボーラで杭を絡め取り、大回りで宙を戻ってくるブーメランが見事にその杭の上の的を打ち落としてガキ共に拍手喝采されているところをばっちりと見られてしまったのだ。
一緒に見ていた交代の男が言った。
「それにしても……、お前そっちの才能があったのかもなぁ。もう『能力持ち』って言っていいくらいの腕前じゃねえのか?」
『能力持ち』ってのは、だいたい百人に一人くらいの頻度で現れる、普通の人にはなかなか真似のできない力や技を持っている者のことだ。この里にも『弓使い』の爺様、『槍使い』のおっさん、そして薬師の婆様という『知恵袋』の三人の『能力持ち』がいる。たかだか五十人ほどの小さい里としてはすごく恵まれている方だろう。
「えー、そうかなぁ…? なんかカリバにブーメランとボーラを教えて貰ってから、妙に手に馴染むなって感じはしてたんですけど」
「いやいや、あれだけできれば害獣駆除でも狩人でも任せられるんじゃねぇか? 今はどっちも『弓使い』の爺様一人に頼り切りだけどよぉ、勢子くらいなら充分いけるんじゃね?」
ジョンさんがちょっと思案顔だ。
「そうよなぁ、爺様もそろそろ誰か若いのに任せられないかと言ってたし、リウロももう大人って歳だし……、どうするよ?」
「いや、ボーラで足止めとかブーメランで追い出すくらいはできそうですけど、俺、剣も槍もあんまりだしいざという時の止めとかが…」
「リウロ、できるよ」
いきなりカリバが口を出してきた。
「え?」
「リウロすごい。きっと、アフリカなげナイフ、つかえるよ」
カリバが門の側に置きっ放しだったアフリカ投げナイフを持ってきた。どこから出したのか、反対の手には見たことも無いくらい形の整った人の頭くらいの大きさの、木の色をした四角い箱を持って。
投げナイフを俺に手渡すと横を通り過ぎてスタスタと杭まで向かい、その上に慎重に箱を載せた。そのまま杭の真横に立つ。
「リウロ、このはこねらう。こわすつもりで」
「ええーーっ!?」
何よ、やるのかよいきなり? 初めての武器で的当てを!?
「だいじょうぶ! リウロならできるよ! がんばって」
箱が落ちないように横に手を添えて、カリバがにっこりと笑った。
もう顔も思い出せないけど、昔死んじまった親父が俺を褒めた時のように。
「お前は俺の親父かっての!」
手に持ったアフリカ投げナイフを軽く振るって感触を確かめる。重さがこうだから投げ方はこう…結構回転させやすい。握りも角を丁寧に落としてあるから手にしっくりと馴染む……こんな感じか。
カリバ……、ホントに一体お前何者なんだよ……。
「よし、いくぞカリバ!」
「ちょっとまって」
「あらっ!?」
何ダヨもう! せっかくやる気になったってのに!
「リウロ、もっとさがって。あと二十くらいさがって」
「ええええええええええっ!? 距離伸ばすのかよ!?」
ジョンさん、交代の男、ガキ共…そしてカリバ。みんなが俺を見ている。そして、、、、、
「あれぇっ!?」
いつの間にか門の所に里の衆がぞろぞろ集まっている。家で縄をなっていたはずのランものこのこと顔を出している。ジョンさんの所で手当てされてたイリも顔を見せている。よかった、傷はもう良くなったようだな。
そして、いつの間にかいなくなっていたブランカが門の前に。
こいつが皆を呼びに行ってたのかよ!?
「みんなみてるから、いいとこみせる! 二十さがって!」
えええええええっ……逆じゃねえの? コレ絶対失敗して赤っ恥掻くだろ?
「できる! できるよリウロ! やってやって!」
「…………」
事情を知らない連中がやいのやいの言い始めた。
その中にぽつりと、あの娘の声が聞こえた気がした。
『リウロ、がんばって』
……やったるわい!
二十歩下がる足取りは、なぜか力に溢れていた。
「よっし! 行くぞカリバ! 外しても笑うなよぉ!」
アフリカ投げナイフを大きく振りかぶって、全身の力を込めて……投げる!!
投げナイフはシューッと音を立てて一直線に、カリバの顔面めがけて飛んでいく。
「Uwwwwwwwwwt!??」
カリバが意味不明の叫びを上げて仰け反り、当たる!と思った瞬間にナイフはクイッと軌道を左に曲げて箱に突き刺さった。
ボゴオォッ!!
想像以上に大きな音を立てて箱が左に吹っ飛んだ。回転する木の刃がバリバリと音を立てて箱を切り裂いて落ちていく。箱は思ったよりもペラペラで軽い物だったようだ。
「な、ななななななななな!? ころすきかーーーー!? リウローーーーーーー!」
腰を抜かしてへたり込んだカリバが大声で怒鳴る。
そのみっともない姿を見て、みんながドッと笑い出した。
……………慌てふためくカリバの顔を見て、ハッとした様子のただ一人の娘を除いて。
(´・ω・) 仕事に追われて死ぬかと思った。
人事はひとごと、次年度も人手不足決定……。