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【第3話:妙な世界】

(´・ω・)   皆様こんにちは、あるいはこんばんは。

どうぞご笑納下さい。

 …………目が覚めた。


 身を起こすと、周りは藪の中。私の身じろぎに反応したのか、藪から小さな羽虫らしきものが一斉に飛び去っていく。どこか遠くで鳥が鳴いたような気がした。

 地面は、苔? 藪の下生えは草ではない。手を付くとちょっとふかっとする。撫でると毛布の表面のような手ざわりだが、うっすらと緑色が付いた。


「さて、ここが新世界か」


 立ち上がると、藪の高さは私の腰丈ほどしか無い。そんな藪が一面に広がった場所……ちょっと離れたところに丘があり、遠くには山頂に雪を湛えた山々が見える。太陽と反対の方角だから、たぶんあちらが北になるのだろう。

 腕時計を見た。山歩き用の方位と気温と気圧が分かるヤツだ。ボタンを押すと液晶画面に方位が表示される……やっぱり山側が北だ。電波の時刻合わせは機能しないだろうがソーラーパワーでずっと使える優れものだ。ちょっと心強くなった。


 改めて今の私の格好を見直すと、意識を失う前のまま、要するに職場帰りのくたびれたスーツ、ワイシャツ、ネクタイ姿に足下は靴下。家に上がった姿のままだった。


「神様……せめて屋外活動できる格好で放りだして欲しかったです。特に靴…」


 裸足で藪こぎをするのは避けたい。というか生きていくための道具が何も無い。せめて靴がないと身動き一つとれない。


「玄関に山歩き用の靴があったのに…」


 茶色のごついショートブーツ、爪先には鉄板が入ったビブラム張りの良いヤツが。あれがあればもっと気軽に新世界の一歩を踏み出せたのに。


 ぼとっ


「!?」


 思っていたら目の前になんか落ちてきた。


 見上げても青い空と白い雲しか見えない。

 一体どこから出てきたんだ?


 手にとってしげしげと見ると茶色のショートブーツ、使い込まれたこの靴紐のくたびれた様子は……私のだ(It's mine.)

 さっそく天の恵みをいそいそと履く。うん、やっぱりこの履き心地は私のだ。


 しかし、なんで靴が後から出てきたんだろう?

 これはあれか、チートは要らないと断ったけど神様が与えてくれた特殊能力だろうか?

 ならあれだ、アレが欲しい!

 異世界転移と言えば必要なのは武器だろう。テレビで見たあのカッコイイ…白銀の輝きの日本刀を!


 両手を天に差し上げて、願望を思い切りぶちまける。


「神様、切れ味の良い日本刀を一振り!」


 ……

 …………

 ………………


「えっ」


 何も起きない。何も出てこない。

 イメージが足りなかったのだろうか?


「加藤清正も愛した名刀! 胴田貫正国!」


 ……

 …………

 ………………


「ええっ!?」


 違うのか? 異世界もの定番の物体創造!?


「ええい、もう何でもいい! 出てこい()!」


 ぱしっ!


「おお、出たああああああ…………えっ?」


 私の広げた両手にすぽりと納まったのは、握りに『 支笏湖(しこつこ)』と彫られた木刀(・・)だった。


「コレも……俺の家にあったもの…」


 観光地によくある土産物だった。


「えっ? すると俺の能力って……」


 神様との会話を思い出す。




“……私が私だった(Mine is)証し( mine)を欠けることなく持っていきたい…”


“……君は君。君の物(your thing)( is )君のモノ(your thing)…”




「ああああああああっ!」


 木刀を持ったままその場に崩れ落ちた。


「神様、確かにそうは言ったけど……ホントに俺の物だけ(・・・・・)ってことですか」


 変に期待した分だけショックは大きかった。そして頭の中がグルグルと回り出した。


「俺のモノだけ、って。俺って前の世界でどれだけのモノを持ってたんだっけ?」


 若い頃から結婚には興味が向かず、ひたすら仕事と趣味に時間を費やした日々だった。

 マンガも読むし小説も読む。映画やDVDも好きだしネットゲームもやった。サイクリングに山歩きにキャンプになんちゃってサバイバル、野球にサッカー釣りに水泳、学生時代には剣道、空手と柔道も囓った。仕事柄、工作もDIYも好きだし畑で野菜も育てたことがある。釣った川魚やヌマエビを飼ってた時もある。ちょっとした小物の収集癖もあったしネットオークションでいろいろ買ったりもした。


 過ぎ去る時の中で手に入れたモノ捨てたモノ、なにがなにやら、だ。






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 ……とりあえず藪の中スーツにネクタイではやってられないので、使い込んで色の落ちた革ジャン(ライダース)にジーパン、革手袋とキャップ姿になった。キャップはビール工場の土産屋で買った麒麟の金刺繍入りだ。

 脱いだスーツをどうしようと悩んだが、しまいたいと考えるとすっと消えた。またイメージするとそのまま取り出せたので、家にあった物ならば出すもしまうも自由自在らしい。

 これはあれだ、自分のモノ限定のアイテムボックスみたいなものなのだと割り切ろう。

 そもそも記憶さえ在ればチートは要らないと言い切った身の上であれば、これだけでも多大な恩恵だろう。


「さて、まずは現在地の確認だな」


 用心のため腰には山菜採りに使った鉄むくのシースナイフ、右手には木刀を持って北側の丘に向かって歩き出す。

 腰丈の藪は見る限り丘の上まで続いているが、生え方にはムラがあるので木刀で藪を払い歩きやすそうな隙間を縫ってずんずん進む。地面には苔が生え、緑のカーペットのようでちょっとふかふかする。


 時折羽虫のようなものが飛び去ったり足下に虫やネズミのような小さな影が逃げ去ったりもするが、脅威になりそうな動物などは全く見当たらない。

 この辺りには生き物が少ないのだろうか。そうなると初っぱなからハードモードになりそうだ。サバイバル動画の主役のようにネズミや虫を捕まえて食うってのは日本育ちの俺にはまだ厳しい。最悪、しばらくは食えそうな野草を囓って飢えを満たすしかない。


 歩いていると時折、一またぎできるほどの小川に行き当たる。

 見る限りではとても澄んでいて、手で掬うとさらさらとして気持ちが良い。ちょっとだけ口に含むと雑味も無く、美味しいと言っていい水質だ。


「とりあえず水はある。藪の中の枯れ枝を集めれば火も熾せるし、沸かせば安心して飲めるだろう」


 また少し、この世界で生き延びる希望が出てきた。上り坂になるが、丘に歩む足取りも少しは軽くなる。

 しかし、神様の配慮で若くして貰っただけあって、体力はまだまだ有り余っている。子どもの頃から外遊びと運動はやっていた。学生時代はサッカーで地区上位のチームに所属していたので、厳しい練習で同年代よりは鍛えられていたという自負もある。このくらいの藪こぎだって全然へっちゃらだ。


 一時間ほど掛けてようやく丘の頂上に辿り着いた。


「おお~~~~~~~~~~~っ!」


 見渡す限りの大平原だ。藪だらけというのを平原と呼んでいいのかは分からないが。

 大きな森どころか、林すら見当たらない。俺より大きい立木すら見当たらない。


「木が無いのか…木の実は食えそうに無いなぁ」


 木の実は、味はともかく猛毒のものは少ない。多少渋かろうが酸っぱかろうが腹を下そうが、一時的な食糧としては手軽で良かったのだが。


「それに不思議なほどに草っ原が見当たらない…花が咲いている所も無い」


 藪の下に苔らしきものが生えていると言うことは、ここいらは季節によって湿地になるところなのだろうか。だから水の上になる藪くらいしか残っていないのかもな。


「けど、なんか妙だ。どことなく違和感がある……」


 雄大だし、手つかずの大自然という感じもある。しかしどことなく妙なのだ。まるで、、、、、


「よくできた日本庭園というかなんというか」


 大きな寺の庭を眺めているような、キレイだけどどことなく作り物っぽいような。

 違和感に首を傾げながら目を凝らして遠くを見る。


「おっ、水だ。湖か沼か、とにかく魚のいそうな大きな水溜まりがある」


 腕時計で方向を確かめると、南南西方向の藪の切れ目に水が見える。


「とりあえず、あそこをキャンプ地とする!」


 木刀を振り回しながら丘を駆け下りる。


「さーて、晩飯は焼き魚で決定だ!」


 生き餌は無いが、釣り道具は竿からルアーまで一通り揃っている。イカ釣り針や大きめのトリプルフックもあるからいざとなれば○○掛け釣りででも。(引っ○○釣りは違法です。異世界でどうぞ)






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇







 「つ…釣れない…………」


 水溜まりは向こう岸がはっきり見えるほどの小さな湖だった。

 岸から覗くと、水中には虫のような黒い粒がたくさん泳いでいるのが見える。虫がいるという事は、それを食べる魚も居るだろう。あわよくば俺の腹を満たせるサイズの大物も。

 意気込んで仕掛けにスプーンを付けて放り込み、ゆっくりと引く。間隔を置いてしゃくる。また投げる。引く。投げる、引く。

 仕掛けが悪いかとジグに変えたりサイズを変えたり、終いには渓流用の毛針まで試してみたが、全く釣れない。当たりの一つも感じられなかった。



「ダメだ… 異世界初めての挫折は釣りだった……」


 釣りの合間に周辺から拾い集めた石ころと枯れ木を熾したかまどで湖の水を沸かしラーメンを作る。片手鍋もインスタントラーメンも願ったら出てきた。うちの台所にあったやつだ。

 ラーメンはマ○ちゃんの味噌ラーメン、正麺じゃないのが俺のジャスティス。これも家にあった一味をパラパラと振って、鍋から直にいただくのが男メシ。うまい!


 日が暮れてきたが風も無く、気温はそれほど寒くもなく。東の空は蒼く染まりちらほらと星が見え始めた。

 とりあえず火を絶やさないようにしたいので周りの藪から枯れた細木をかき集める。生木も燃えるかと一本根っこから引き抜いて熾火の上に置いてみたら、パチパチと線香花火のような音を立てて燃え始めた。しかし白煙がスゴイ、まるで松か杉の枝のようだ。

 ついでとばかりに虫除けとして何本か引き抜いてくべる。辺りに白煙がたなびき、うっすらと樹脂の匂いが広がる。これでしばらくは虫も近寄らないだろう。


 大型のブルーシートを畳んだままマット代わりに、春秋用の寝袋を敷いて横になる。

 すっかりと日も暮れ、満天の星空が広がっていた。星の輝きは街の灯りが無いので一際鮮やかに見える。白いもやのように空を横切るのは天の川か……元の世界ではよほどの田舎でないと見えなくなった光景だ。視線を巡らせても、見知った形の星座は一つも見えなかった。月も見えない。


「ここは月の無い世界なんだろうか? それともたまたま新月だったのかな……」


 テレビも無い。ネットも無い。ただひたすらに静かな夜の時間。何もすること無く焚き火を眺めているウチにとろとろと眠くなってきた。

 枯れ枝を数本焚き火に放り込んで、木刀とブーツを枕元に置き寝袋に入る。


「明日は、もっと食材のありそうな所か人里にでもたどり着けたら良いなぁ」


 そう考えているうちに、いつしか俺は寝入ってしまっていた。






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 ……なんかくすぐったい。顔を…口元を小さな生き物が舐めているような。


「んぅ?」


 目を開けると、真っ白いものが顔に前足を掛け、しきりに唇辺りを舐めている。体つきは細いが…ドブネズミサイズの…


「うわわわわわっ!?」


「きゃうっ」


 慌てて寝袋から右手を突き出し、その白いものを掴むと思いっきり遠くに放り投げた。


「きゃううううううううううっ!?」


ぱしゃぁん!


「くそっ!? 何だ何だ? いつの間にネズミが寄ってきたんだ?」


 寝袋のファスナーをおろし上体を起こす。

 いつの間にか空は白み、湖は生き物が落ちた衝撃で波紋ができている。

 ブルーシートの周りには…小さな生き物が五、六匹近付いてきており、いきなり動き出した俺に驚いて身を縮め凍り付いたように動かない。

 灰色の生き物は、さっき放り投げたものと同じ細っこい…狐? 犬? まるで日本の伝承の管狐のようなミニサイズだ。細っこいけどミンクやオコジョとも違う、手足が長く鼻先が尖った犬系の顔をしている。

 そして、、、、、


「コロポックル?」


 茶色の革鎧っぽいモノを纏ったミニサイズの人影が一つ。両手には小枝で造ったような棒……いや違う、弓矢だ!


「€ÅЙФзЖ$‰~~!」


 喋った! いや何か叫んで撃ってきた!

 とっさに右手を上げると、ぷつっと音を立てて革ジャンの袖に爪楊枝のように小さい矢が突き立つ。


「えっ!? 何してくれてんのコイツ!?」


 枕元の木刀に手を伸ばし、切っ先をそいつに向けてブンと振ると、


「ДыяФз~!」


 またもや何やら叫んで、小柄な体に似合わないほどの猛スピードでチョロチョロと藪に逃げ込んだ。周りに居た灰色の生き物もチイチイキュウキュウ言いながら人影を追いかけていく。


「あっこら! 待て! 逃げるんじゃねぇ!」


 こっちも慌ててブーツを履いて追おうとするが、低い藪の中に逃げ込んだコロポックル達は葉の陰でもう見えない。


「チクショウめ、すばしっこい!」


 腹立ち紛れに近くの藪をバシバシ木刀でなぎ倒す。バキバキと音を立てて千切れた木っ端が遠くまで飛び散った。


「ふう、なんだったんだありゃあ……」


 湖の方を見返すと、放り込んだ真っ白い生き物は溺れたのか緩慢な動きで藻掻いている。


「あっ、沈んだ」


 咄嗟に払いのけたがネズミかと思って反射的にだ。もともと食わない生き物を遊びで殺す趣味は無い。


「えらいこっちゃえらいこっちゃ!」


 岸に駆け寄ると白い影がゆっくりと沈んでいくのが透けて見える。2mくらい離れている。もう手でも木刀でも届かない! どうしようどうしようなんかないかなんかないか!?


「あっ、たも網!」


 釣り用の伸縮柄のたも網を呼び出して慌てて掬い上げる。

 青色の粗い編み目の中、白い生き物は手足を痙攣させるだけでもう身動きもできないようだ。まずい、余裕が無い。

 両後ろ脚をつまんで逆さ吊りでふるふると動かす。足がもげないように気をつけながら上下動させる。


「けぽっ、くはっ、くはっ!」


 やった、水を吐いた! 立て続けに水を吐いてぜいぜいと喘いでいる。

 急いで寝袋にとって返し、雑に丸めた寝袋の上に白い体をそっと横たえる。


「えっと、くうき空気さんそ酸素!」


 うちの薬箱の中にスポーツ用の携帯酸素があったはずだ、まだ使い掛けの。

 ピッ▼フジモトの赤い缶を取りだし呼吸カップをくっつけて白いのの上半身にすっぽりと被せてシューッと一吹き。間隔を空けてまた一吹き……そしてまた一吹き…………

 カップを上げてみると、目は閉じたままだが呼吸はずいぶんと落ち着いてきた。


「ふう、どうやら一安心だな……。しかし一体何なんだコイツらは? 管狐にコロポックル? 神様に聞いてたのと違うぞ。まったくのファンタジー世界じゃないか!」


 俺が神様から“お願い”と共に聞いていた新世界の情報では、

 環境と生物相は地球と大差なく、文明は中世レベル。

 魔法(・・)を使えるのは特殊な条件を経た(・・・・・・・・)一握りだけ。

 一般人の中には「能力持ち」「特技持ち」と呼ばれる者も“ちょっと珍しい”くらいの頻度で存在し、殆どが後天的な知的・技術的な力から肉体・運動能力的な力ばかりらしい。

 要するに、テンプレ的な“ナーロッパ”ということだ。


「え? でも、そうなると…………」


 神様の言葉が蘇る。




『……それは当然できるよ。今の君と何も変えなくていい(・・・・・・・・・)んだから。でも、向こうの世界にとってはどうかなぁ……かなりの負荷になっちゃうと思うんだけど……』




 一気に血の気が引いた。


「え……もしかして、もしかして…これがこの世界の標準サイズ(・・・・・)?」




『……かなりの負荷に(・・・・・・・)なっちゃうと思う(・・・・・・・・)んだけど……』




 この白い管狐とさっきのコロポックルはほぼ同サイズ。俺の持ってるペンケースとほぼ同じくらいだから…15cmから20cmくらい…………?






「かみさま~~~~~~~! それを真っ先に教えておくべきでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




  地球サイズ(・・・・・)の俺が、この世界では規格外に大きい…… 10倍スケール(・・・・・・・)のバケモノだなんてぇぇぇぇぇ!



(´・ω・)  少し日が長くなりましたね。春が待ち遠しいです。

もっとも、こちらのサクラはGWですが。

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