【第15話:妙な別れ】
(´・ω・) みなさまこんばんは。あるいはこんにちは。
よろしくご笑納下さい。
……広場に集まった里の衆の思いは一つだった。
『『『『『『『『『『あのカリバが妙なことを言い出しやがった!?』』』』』』』』』』
『おい、神って何だよ?』
『昔、聞いたことがあるよ。あのよぼよぼの教戒師の話で』
『そういえばそんな人も居たよなぁ。もう二十年以上も前だっけ?』
『ハンキムの内乱から逃れてきたときに一緒にいた教戒師様だよ。もともとは王都にいた役付の人だったそうだけど、教会自体が取り潰されたから必死に逃げてただの農民に戻ったって言ってたっけ』
『俺達の爺様婆様の頃の人じゃないか。何か神って言葉も童の頃に聞いたような気もするが、そんなもんが居たんならご先祖がこんな壁の際まで逃げてくることも無かったろうよ』
『だよなぁ、今時、神なんてものを信じてるもんが居るなんてなぁ…』
「…………」
上着と脚衣が繋がった青い服を着たカリバがとても悲しそうな顔をしている。
そりゃそうだ、これから里の者を言いくるめる為に大嘘をついたってのに、初っぱなから否定から入られちゃあなぁ……。ダメだろこれ。
「あーーーー、みんな、とりあえず、カリバの言うことを最後まで聞いてみないか? 騙されたと思ってさ」
…カリバ、俺はお前を庇ってるんだぞ! なんだその裏切られたって顔は!?
「そ、そうだ! 酒! カリバ! お前酒の神様のお遣いなんだろ!? 酒を出したらみんな信じるって!」
不信の目を向けるな! 諦めたような顔スンナ! ほれ!
「…ならばーー、リウロのいうとおりー、おさけをだしてしんぜようーーー! かしこみかしこみーー!!」
あ、こらだめだ、自棄になってる。
カリバがおもむろにざざっと下がると、皆の目の前に巨大な、、、、、白い皿が出てきた。
『『『『『『『『『『おおおおおおぉぉーーーー!?』』』』』』』』』』
そしてカリバがその手から飛沫を上げて皿に黄金色に輝く何かを注ぎ込む。
「“原寸”」
ざわわわわわわああぁぁーーーーーーーっ!
巨大な白い皿が一気に沸き立ったかのように白い泡が覆い、そして辺りにビールの濃い香りが立ちこめる。
まるで里の広場にビールの丸い池が出来たかのようだった。
『『『『『『『『『『ううおおおおおおぉぉーーーー!!!』』』』』』』』』』
「きゃあああぁぁぁぁぁぁーーーーッ♡」
イリ、てめえ無責任にビールで喜んでるんじゃねぇ! これからお前が槍玉に挙がるんだぞ。
「われがー、このさとにきたはーー、そこなイリのちちおやーー、せんだいのさかづくりのものがてんにめされたためなりーー! せんだいはーー、うでのよいさかづくりであったーー! かみはーー、そのせんだいのねがいをききとりーー、このさとをーーさかづくりのさとにしたてるためにーー、われをつかわしたりーー!」
「あっ…、そうそう! うちの父さんが酒造りの前によく天に祈ってたわー! 良い酒が出来ますようにー、って毎回!」
イリ、てめえも棒読みじゃネーか!
「このさとにはーー、よいむぎありーー、よいみずありーー! そしてーー、しられていなかったさかづくりのみょうやくーー、ホップありーー! そこなやくしがーー、かべにはえるーホップをーーみつけたりーー!」
「え? えええっ!?(カリバさんわしゃそれ聞いてないよ!?)え? ああ、そうそう!『壁』一面にホップってぇ妙薬が生えてるのを見つけたのさぁー、ぁぁぁ」
婆様は初耳だったか。昨日見つけたの伝えてなかったし、わざとらしいのは仕方ないか…。
「これほどーー、よいさけづくりにーーむいたさとはなしーー! よってかみはーープグサのさとをーーさかづくりのちとしてーーしゅくふくしたりーー! さとおさのジョンよーー、もっとむぎをつくりーー、どんどんビールをーーつくりたまえーーー!」
「うぇえええっ!?(いきなり振らないでくれよどうすんだよどうすんだよ、あ、)カリバサマー、麦を作れと言っても畑が足りませんー! ちょっと無理じゃないかなー、と」
いやジョンさん!? ここまでやらせといてそれはマズイだろ!?
ほら、カリバも泣きそうな顔して!? え? カリバ!? もしかして怒った!??
「わかったーー! はたけがもっとほしいならーー、くれてやるからそこなビールでものんでまっておれーーー!! さけのかみはいだいなりーー!!」
あっ、手に持ってた小さな樽のような物を口に当ててぐいぐいっと飲んだ。
「みよーー! これがさけのしんのちからーー!!」
ズ、ズ、ズウウゥゥゥン!
『『『『『『『『『『う、うわぁぁぁぁぁーーーー!?』』』』』』』』』』
里の広場の一角に、突然巨大なカリバが出現した。
「はたけのーーいちめんやにめんなどーー、かるいかるーーい!
ズン、ズン、ズン、ズン………
里の門の方にカリバが歩いていく。片手に大樽よりも二回りほどもでかい、黒地に金の星の印のついた金属で出来た樽を持って。
里の皆は呆気にとられて巨大な皿の周りで立ち尽くしている。
イリだけだ。カリバに目もくれずに両手でビールを掬って飲み始めているのは。
「カ、カリバー、落ち着けー! お前何をやらかす気だー!?」
「やらないかー? ビールづくりー、やらないかーー!!」
何だよそれ!?
まるで歌うかのように答えたカリバはそのまま門から西の畑に向けて地響きを立てて歩き続ける。
一歩一歩の歩幅が違いすぎる。俺は歩くカリバの後ろを走りながら声をかけ続けた。
「待てって、おい、待って! 落ち着け! お前のその姿をばらさないために大嘘ついたんだろうが! ばれてる! ばれてるって! もう丸見えだよー!?」
「うっはっうっはっ、うっはっうっはっ、うっはっうっはっ、やらないかー?」
「歌うなああああぁぁぁ!!」
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……日が西に傾く頃、畑の向こう一面に広がった草地を三つ叉の鍬で深々と、今までの畑二面分を軽々と耕してカリバの暴挙は終わった。
「ごめんリウロ…ついむしゃくしゃしてやってしまった。はんせいしてる」
「むしゃくしゃって何だよ、それを言うなら無茶苦茶だろ。どうすんだこの新しい畑……」
普通の人並みに縮んだカリバと俺の目の前には、黒々とした土を見せた真新しい畑が広がっている。あの巨体のカリバが並みの十倍もの大きさの鍬で深々と掘り返したのだ。出てきた岩も全部カリバが拾って捨ててくれたから、土に混ざっている大石さえ拾えばすぐに種蒔きが出来そうなくらいに整っている。
「ここでむぎをそだてたらいいよ。おさけいっぱいつくるならむぎもいっぱいいるし」
「こんなに広い畑をいきなり貰ったって蒔く種麦がねえよ! 俺達に麦食わないで収穫した分全部植えろってのかよ!?」
「あーー、そうか…。おれもたねむぎはもってない……」
「上手くいっても三、四年はかかるだろ。この畑を使い切るには」
「うーん……、あ、リウロ? とんこつそうめんうまかったか?」
「あ? ああ、あれは美味いもんだな。美味かったよ。里のみんなも喜んでた」
「なら、ことしのむぎはぜんぶこのはたけにうえちゃおう!」
「何でだよ!? お前俺の話聞いてたのか?」
「おれ、そうめんならいっぱいある。さとのみんなにあげてもだいじょうぶなくらい」
「はぁ!? いくらうちの里が小さいからって、ガキ共も入れりゃあ五十人は居るぞ。あんな茅の束みたいなものをそんなにいくつも持ってるってのかよ?」
「えー? おれのもってるそうめん、ひとはこでひゃくたばいりよ? おれひとりで、いっかいにろくたばくらいたべるもの」
「ひゃ、百? 一回で六束も?」
さっきまでせっせと畑を耕していた巨体を思い出す。あれだけでかければ、一回で六束も食べるってのも納得だ。しかし、百? そんなにいっぱい?
「そうめん、なつのあついときのたべものね。ゆでてからみずでひやして、つめたいしるにつけてたべる。ひゃくなんて、ひとなつでたべおわるね」
「はぁ~~、やっぱりお前、ほんとにでっかいんだなぁ。お前の元の世界って、そんなでかい人ばかりいる世界なのか、すげえなぁ」
「…………、そうね。おおきなひとばかりいる、ふつうのせかいよ」
あっ……、マズイ。カリバの顔が曇った。言っちゃいけないことをついうっかり…。
「かえろリウロ。はたけのことはおれからジョンさんたちにいうね」
「あ、ああ……」
そう言えば、カリバが畑を起こしているときに里の者は誰も見に来なかったなぁ?
放っぽって出てきたけど、いったいどうなったのやら…。
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……俺達が戻ると、里の中は大騒ぎに、、、、、なっていなかった。
というかあの後、大皿いっぱいのビールに一昨日の宴会の続きが繰り広げられ、大人は皆酔いつぶれガキ共は食い疲れて家へと戻っており、すっかりと広場は閑散としていたのだった。
「ようやく戻って来やがった…」
疲れを全身に滲ませたジョンさん。
「とりあえず酒を置いてってくれてよかったわい。なんとか皆を欺くらかして酔いつぶれさせといたから、カリバさんがやってたことを見に行ったやつはいなかったろうよ」
婆様もすっかりとくたびれた顔をして炊事場の傍らでしゃがみ込んでいる。
「リウロー、おそかったねぇ♡ ビールぜーんぶのんじゃったからねぇー♡ あははー♡」
ええい鬱陶しい! いちいち抱きついてくるんじゃネーよイリ!
「なんかズンズンざくざくとずっと音がしてたけど、いったい畑の方で何があったの? リウロ」
ランは心配そうにこちらを伺っている。
「あー、それが何て言って良いのか悪いのか…」
「リウロ、それおれがいうよ。あのね、じつは…………………………………」
「とんでもないことになってやがる…畑が一気に三倍に……?」
「これはもう、多少の事じゃあ誤魔化せないねぇ…」
「カリバさんがそうめんをくれるって、来年まで食べられる分があるの?」
「ZZZZZZZZzzzzzzzzzzzz……」
いい気になって俺の肩で寝てるんじゃねえよイリ!
炊事場で車座になって話している俺達の中で無邪気に寝ているのはコイツだけだ。
隣に居るカリバに声を掛ける。
「どうするカリバ? 明日になったらまたえらいことになりそうだぜ?」
「…………そうね、もうしおどきだから、いまのうちにわたしこのさとをでるね」
「「「「!?」」」」
「おさけのかみさまにねがいつうじて、はたけがひろくなった。らいねんまでのたべものもてにはいった。みんながおさけのかみのしゅくふくをうけてるうちに、カリバはかみさまのもとにかえっていった、そういうことにしとこう?」
「カリバさま、それは……」
「ちょっと乱暴な話だけど、それしかないかねぇ…」
「薬師様!?」
「カリバ? おまえこんな別れ方でいいのかよ?」
「しかたないね。わたしはやっぱりただのひとよ。かみさまのおつかいなんてうまくできないね。あとは、さとのみんなが、ちょっとでもかみさまをしんじてしあわせになってくれれば、それでいいね」
「「「「……」」」」
「わたし、つぎのさとにいって、もっとうまくやるよ。このせかいのこともっとしって、みんなとなかよくやっていきたいね。そしたらまた、このさとにもかえってくるよ」
「カリバ…お前よう……」
「そんなかおしないでリウロ。リウロ、このせかいではじめてのわたしのともだち。ランさん、このせかいではじめてやさしくしてくれた、おかあさん」
「カリバさん…」
「やくしさま、わたしのことかばってくれた、やさしいおばあさん。ジョンさん、さとのひとをまとめる、やさしいおとうさん」
「カリバさん」
「カリバ…様…」
「イリさん、むじゃきでかわいらしい、わたしのいもうと。リウロのおよめさん」
「ZZZzzzzz…」
「みんな、ありがとね」
そう言っておもむろにカリバが立ち上がった。
「“原寸”」
そして、何事かを呟いたと思ったら、
ドサッ、ドサッ、ドサッドサッドサッ…………
出てくる出てくる。まるで藁束を放り出すかのように束になったそうめんがいくつもいくつも……
「これだけあれば、ひとふゆこせるかな」
広場の一角にそうめんの束が山と積み上がった。
「カリバ様…こりゃあ、こりゃあ貰いすぎです。俺達は新しく畑まで拓いて貰った。その上にこんなにたくさんの食べ物を……」
「いいのよ。わたしにとってはほんのすこしね。それとリウロから、てつはたかいってきいたね」
チャリン、カラン、ガラン、ガチン、チン…………
大小様々な、いろいろな形の鉄の板と鉄の杭が。
「わたしにとってはごみみたいなものだけど、うちなおすなりうるなりして、うまくつかって。あとはリウロへ」
どこから取り出したのか、三本の曲がった鋭い刃の付いたアフリカ投げナイフ…白く輝いて見えるほど綺麗な鉄製の。
そういえば、木製のヤツはあのイノシシの皮を貫けずに壊れていたっけ。
「これ、ステンレスのてっぱんでつくったね。なかなかさびないし、かたいよ。イノシシにあたってもこわれないね」
「とんこつスープ作ってた時の細工物かい…あん時はちまちまと何を作ってるのかと思って見てたけど、こうやってみるとなかなか恐ろしいもんだねぇ…」
「だいじょうぶよ。リウロならきっとうまくつかえる。でっかいえものもとれるね。がんばって」
「カリバさんや、ちょっと待ってておくれ」
婆様が自分の家に向かって歩いていく。
「あー、そうだ。ブランカ? ブランカどこ?」
「あうん」
今までどこに居たのか、家々の間からブランカがぬっと出てきた。里の者の騒ぎを避けて昼寝でもしていたのだろうか。相変わらず眠そうな眼をしてのこのこと近寄ってくる。
「ブランカ、おれもうこのさとをでるよ。おまえどうする? いっしょにきてくれるか?」
「わうん」
「そか。きてくれるか。これからもよろしくな」
ぷいっ
「え? ブランカ…」
「あうん」
「ついていくけど、あんまりよろしくする気は無いみたいだぞブランカは」
「えぇ~、そんなこというなよぉ。またうまいものあげるからさぁ」
「わうん」
何だろう、カリバとブランカはこれはこれでいい相棒のような気がする。舐められてるけど。
「ああ、まだいてくれたね」
婆様が戻ってきた。
「カリバさん、次の里に行くんだろう。川沿いの細い道を三日ほど南に進んでいくと、ここよりは大きいデントという里に着く。大きな街道に近いから小さいけど店とか宿もある。そこなら、これの使い道もあるだろうさ」
婆様はカリバに布の小袋を渡す。チャリッと小さな音がした。
「やくしさま、おれ、こんなのもらえないよ。めいわくかけたし」
「何言ってるんだい。ジョン様じゃあないけどこちらこそ貰いすぎさ。小銅貨ばっかりでそうめんと鉄材のお代にしちゃあほんの少しだけど持っていっておくれ。この世界のお金も初めてなんだろう?」
「…ありがと」
「さぁ、少しでも日のあるうちに先に進むんだね。ま、カリバさんなら熊だろうが狼だろうが物の数でも無いんだろうけどさ」
「そんなことないよ! かまれたらいたいし!」
「まぁ、寝る時はあの大鍋でも被ってれば何も手出しできないから大丈夫さ」
「あ、そうかも」
みんなの小さな笑いが弾けた。
誰ともなく軽口を叩きながら家々を抜け、俺の家から荷物を引き取り、門の前まで歩いた。その間、イリはずっと俺の背中で気持ちよさそうに寝入っていた。ほんとにこの娘は……。
「じゃあ、いくね。みなさん、おげんきで」
「はいよ、カリバも元気でなあ」
「さようなら」
「さようなら」
「ZZZzzz…」
「さようなら、カリバさん」
カリバが川に向かう緩やかな坂を、ブランカを連れて上がっていく。
川に当たると右手、南の方に向かって進み、最後に大きく里に向かって手を振って…木々の向こうに消えていった。
「ところで婆様、カリバにいくら渡したんだ?」
「ああ、小銅貨ばかり二十枚程かねぇ……後は、袋の底になけなしの小金貨を一枚ね」
「「「えっ!?」」」
「あれだけ冷や冷やハラハラさせられたんだ。最後にこっちから驚かしてやってもいいだろうさ。あの人なら、きっといつか返しに来てくれるかも知れないしねぇ…」
「……ああ、そうだな。カリバなら気付いた途端に馬鹿正直に返しに来そうなもんだよな」
「そうだねぇ」
「そうだな」
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
……あっという間に一年が過ぎ、二年が過ぎた。
カリバの旅立ちの後しばらく、里の者はみな夢を見ていたかのような気持ちで日々を過ごしていたが、ジョンさんの指導の下で行われた麦の生産拡大とホップを使ったイリのビール作りが見事に当たって、プグサの里は知る人ぞ知る名酒の生産地としてかつて無く賑わうことになった。
俺は俺で、弓使いの爺様の後を継いで里一番の狩りの名人、『投擲手』の能力持ちとして知られるようになり、里の童から選抜された『搦め手』と『飛鳥使い』を率いて『壁の上』にまで出張るようになる。
そして『壁の上』には教戒師が言っていた『死んだ良い人の街』など無く、大小様々な獲物と、それを狩って暮らしてきたピョンタという隠れ里の人々が住んでいたことが明らかとなり、それぞれに伝わる『巨人』と『森の人』との奇妙な符合によって、人々の交流が始まることとなった。
カリバは、まだ金貨を返しに来ていない。
もしかして旅先で袋ごと落としてしまい、とうとう底の金貨に気付くことも無かったのだろうか。
それともアイツのことだから、未だに貰った小銅貨一枚さえ使う事も無く、袋の中の金貨に気付くことも無く、後生大事に懐に抱え込んでいるのかも知れない。
(´・ω・) 4月1日の某ニュース、嘘かと思ったらマジだったのでしょうか?
マジだったら是非見てみたいような、決して見たくないような複雑な気持ち。
ついつい釣られて某動画を見直しちゃいました。




