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【第11話:妙な宴会】

(´・ω・)  皆様こんにちは。あるいはこんばんは。

今日も書きました。ご覧下さい。

 …………どうしてこうなった???


 俺が仕留めたイノシシは重さざっと大人10人分、500ポドはあろうかという大物だった。

 必死の思いで心臓部を突いていた俺をあっという間に里の皆が取り囲み、大物だよくやったとはやし立て、いつの間にか子どもたちを守った功労者は俺と言うことになってしまっていた。


 だが、本当にイノシシを仕留めたのは俺じゃない!

 カリバだ。カリバがアッという間に背後から駆け寄ってきてでかい図体に前蹴り一閃。ガキを襲おうとしたイノシシを吹き飛ばしたのだ。

 しかしあいつは止めを念入りに俺に刺させ、その様子をしっかりと皆に見せつけていた。その上取り囲んだ人垣の裏からリウロがやったぞとはやし立てる。

 あいつ、狙ってやがった。なんて悪知恵の働くヤツだ。

 おかげで俺は遅れてやって来たランに無謀なことをするなと叱られ、いつの間にか死んだ親父のように立派になってと大泣きされている。


「…昔、お前の親父も里の者を守るために熊に立ち向かってやられたんだ。ランはあれから里の者と一線を引くようになっちまったんだが…あれは仕方ないこととは言え、死なせてしまったのは申し訳なかったと思っている」


 ジョンさんも俯いて苦い顔をしている。しかし、その顔を上げて続けた。


「だが、いつの間にかお前がこんなに立派な男になって、親父も嬉しかろうよ。しかもこんな大物を仕留めたんだ。もうお前をいっぱしの大人と認めるべきだろうな」


「ジョンさん…俺……」


「まあいいから、そういうことに(・・・・・・・)しておきな(・・・・・)


 いつの間にかやって来ていた薬師の婆様が、何か含み(・・)を持たせて言った。


「カリバさんがうちをえらい勢いで飛びだしていったからきっと何かあると思ってはいたんだが、こうなるとはねぇ。まぁ、大したもんだよリウロもカリバさんも(・・・・・・・・・・)


 ジョンさんが背後の婆様を振り返ってギョッとしている。


「え、婆様…?」


「まぁ、アレを見るもんが見ればはっきり分かる(・・・・・・・)さ。でもみんな久々の大物に浮ついてるからねぇ。そういうことにしといた方がいいんだよ」


「え? え!?」


 ジョンさんの顔が引きつってきた。


「ジョン様も、もうちっと目を養いな。リウロの親父さんのようなことが二度と無いようにねぇ」


「「…………」」


「まぁ、せっかくのイノシシだ。今宵は久々に里中で肉が食べられるねぇ、いいことじゃないか。さあジョン様、差配しな。早くしないと肉が臭くなっちまうよ」


 そういって背を向けた婆様は一人里へと戻っていく。


「……」


「お、おう。さあみんな、さっさとイノシシを川まで持ってって解体するぞ! 今夜は祝いだ!」






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 ……麦の収穫前のこんな時期に、こんな豪勢な宴会が行われるなんて、信じられない。


 それもリウロの狩ったイノシシ肉の量が多かったおかげだ。普段は保存の利く干し肉が汁物に混ぜられるのがせいぜいの里の食卓に今回の大量の生肉は多すぎた。処理しきる前に腐らせないために、半分の量を塩漬けに、残りの半分は全て一夜の宴に供されたのだ。

 目下、女衆が里共同の炊事場で包丁を振るい、汁物と肉焼きの準備に大わらわだ。男衆は川までの大物の運搬と解体と塩漬けで疲弊した体を里の広場に投げ出し、童のようにご馳走の到来を待っている。


「イリ、お前のとこに酒はまだ残ってるか? これだけの宴会だ。酒を出さないと男衆も女衆も納まらない」


 皆の動きを指揮していたジョンさんも見るからにくたくただ。さぞかし酒が必要だろう。


「……春に仕込んだ残りがかろうじて。でも、みんなで飲んだら大した量じゃないですよ? それに、私のだと酒精も味も父さんには遠く及ばないし」


「なんでもいい! 幸い今年は豊作になりそうだから収穫後には麦をいつもより多く回す! ありったけ持ってきてくれ! リウロを手伝いに回すから」


「リウロ…」


 リウロも今日の大活躍で疲れているのに、そんなことを任せていいのだろうか。功労者は大人しく休んでいてくれていいのに。


「リウロもお前さんにまんざらでも無い。行き来がてらに語らってくれば良いさ。さあさあ行った行った!」


 ジョンさんに呼ばれたリウロが駆けてくる。そして二言三言話した後、こっちに向けてやってきた。あれ、何だか顔が赤いような…?


「よ、ようイリ。酒を取りに行くんだろ、一緒に行くよ」


「ごめんなさい。イノシシと戦って疲れてるのに…」


「い、いや、大したことは無いよ。それより急ごうぜ、カリバ!」


「えっ!?」


「わかった、いくよ」


 リウロの後ろにカリバさんが付いてきている。あの、得体の知れない人(・・・・・・・・)が。


「カ、カリバさんも来るの?」


「ああ、大丈夫だよ。もうカリバも元気いっぱいだし、酒樽運びも大丈夫だから」


 そういうことじゃ無いんだけど!?


「イリさん、おさけつくってる、みたい。リウロにたのんだ、みせて」


「え、えぇぇ…」


「大丈夫だよイリ、カリバは悪さなんかしないからさ」


 そういうことでも無いんだけど!


 確かに、人の良さそうな顔でニコニコしているカリバさんを断るのは何か気が引ける。しかも、酒は確か2~3樽は残っていたはずだ。取引用の小樽だが、二人で運ぶのはちょっと辛いかも。


「じゃ、じゃあお願い。行きましょリウロ」


「おう、イリの家に行くのも久しぶりだなぁ…」






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 何日ぶりだろう、カリバさんがやって(・・・・・・・・・)来てここから(・・・・・・)逃げて以来(・・・・・)だから、七日、八日?

 酒造と酒蔵を兼ねた自宅は、いつもよりも濃い酒の匂いを残していた。冷えた空気の中に籠もる独特の酒種(・・)の匂い…慣れ親しんだ父の匂いだった。


「えっと、残っているお酒はこれと…あっ!?」


「何? どうしたイリ?」


 後ろに立つリウロが聞いてくる。カリバさんは家の中を興味深げに覗き回しながらクンクンと鼻を鳴らしている。他人の家なんだからあんまり馴れ馴れしく嗅ぎ回らないで欲しい。


「いや、たまにあるのよね、古い樽だと…」


 小樽は一つは無事だったが、もう一つは板の合わせ目が緩み、かなりの量の酒が浸みだしている。傾けてみると、重さは半分も無い。実質、残りのお酒は一樽がいいところだ。


「あーー、漏れてるな。コレ」


「どうしよう……一樽だけじゃ足りないよね、絶対。おじさんたちが暴れ出しそう」


「うーーん、みんな酒は大好きだからなぁ。おばさんたちも荒れそうだ。『酒なしで何の宴会か!』って」


「「うーーーーーん」」


 リウロと二人で頭を抱えていると、いきなり場違いなほどの明るい声がした。


「イリさん、さけ、ないか? このたる、つかていいか?」


「「…カリバ(さん)?」」


 カリバさんは壁際に置いてあった、酒造途中で麦汁を取り置きする大樽(・・)に歩み寄ると、いきなりその手から何かを注ぎ込み、呟いた。


「“原寸(actual)”」


 空だったはずの大樽の中身が一気に沸き立ち、一気に冷気(・・)と爽やかな薬草の香り(・・・・・)が部屋中に広がった。


「ちょ、カリバおまえ何を!?」


 リウロがカリバさんに走り寄り肩を押さえる。

 カリバさんがこちらを振り向いて言った。


「だいじょうぶ、これ、おさけ。おいしいやつ。リウロにおしえる、いったやつ」


「酒ぇ!? えっ!? なんだこれ? 樽がシュワシュワ沸き立ってる! 煮えてるのか!?」


「ちがうよ? これ、つめたいやつ」


 カリバさんがその手に持った物を無造作にリウロの頬に押しつけた。


「うわぁっ冷てぇ!? なんだこれ!? 氷か?」


 カリバさんが手に持っていたのは……青い色をした…小さな小さな樽のような物だった。表面に星と角鹿?の絵が描いてある。


「これ、ぎん●こう●んビール、おいしいやつ」


 訳が分からない!? ビール? お酒? おいしいの?

 大樽を一気に満たした液体は、確かにお酒の匂いと爽やかな草の香り…思わず私の喉がゴクリと鳴った。


「イリさん、のんでみる? リウロも」


「えっ? 俺? まだ酒なんて一度も飲んだことねえょ!?」


「……飲んで、いいの?」


「イリ!?」


 カリバさんが差し出した冷たい物を手に取り、口に近づける。

 上から見ると、磨き抜いた包丁のような白い蓋?そこに小さな穴が開いていて、そこから私の好奇心を掻き立てる匂いが、小さなシュワシュワ音と一緒にあふれ出してくる。


 小穴に口を当て、コップを煽るようにそれをゆっくり傾ける。


「イリっ!?」


 口の中に流れ込んでくる冷気。口の中で沸き立つ甘く爽やかな香り。そして私のお酒とは段違いの圧倒的な酒精。


ゴクッ…ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…………


「プハーーーーーーーッ!!」


 美味い! それしか頭に浮かばない!

 酒好きが講じて死んだ父親の血を引いて、私も実はお酒が大好きなのだ。

 小娘の時分から父の手伝いと称して結構な量の酒を飲んできた。そんな私でも経験したことの無い、父の一番出来の良かった酒でも全く敵わないほどの味!

 

「イリさん、いいのみっぷりね。おいしい、でしょ?」


「美味しいいいい♡ なんでこんな酒が、カリバさん、なんでこんな酒が!!?」


 顔が火照ってきてるのはきっとお酒のせいだけじゃない、惚れたのだ! 圧倒的な高揚感と興奮が私の体を包んでいる!


「お、おいイリ…おまえまさか………」


「惚れたッ♡」


 リウロの顔が一気に暗くなり、顎が外れんばかりに大きく口が開いている。


「そうでしょ、ほれるでしょ♪」


「うんうん♡」


 私にはもうカリバさんの人の良いニコニコ顔しか見えない。

 傍らで誰かの(ひざまづ)く音が聞こえた気がするが、そんなものはもう気にならない。


「だからおねがい、イリさん…このおさけつくってね」


「わかったあああああ♡」


「これ、おさけつくるとき、ホップ、やくそういれて、つくる。このにおい、やくそうのにおいね」


「うんうん♡」


「おれ、リウロといっしょに、ホップさがす。ホップみつけたら、イリさん、けっこんしてね…リウロと」


「わかったああああああッ♡」


 傍らの気配が一気に立ち上がった。


「何の話しだああああああああああああああああああああああああ!???」


 そんなことはどうでも良い。私は惚れたのだ、この酒に、ビールに!

 きっとリウロと一緒に美味いビールを造ってみせる、私のこの手で!!






   ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 ……突然の大宴会は、盛況と言うよりも狂気の有様だった。


 女衆のこさえたイノシシの肉焼きと汁物、そしてイリ達が運んできた酒も相まって、男も女も大いに貪り、飲み、そして歌に踊りに狂った男女が所構わず絡み合いを始めるに及んでしまい、慌てて童らを家に追い返さなければならないほどだった。

 全ては食い切れないほどの肉を獲ってきたリウロと、ビールとかいう美味すぎる酒を大樽一つ分も持ち込んだイリと、途中から食ったことの無い料理を出してきたカリバのせいだ。




「ジョンさん、これ、スペアリブ。うまいよ、たべて」


「スペアリブ? なんだこれイノシシの骨付き肉かよ…骨が邪魔で食いづらいんだよなぁ……って美味ええええええええなんだこれ!? ただの肉じゃない!? 薬草と、得も言われぬ良い匂いが…そして香ばしい、美味いいいいいい!!」


「これ、●レイジー●ルト。しおと、いいあじのたね、やくそう、やさいをまぜて、かわかしたものつけた。にく、おいしくなる」


「塩と、確かに何かの薬草? 野菜の匂いも。不思議だ、合わせると肉がこんなに美味くなるなんて」


「やくしさまのところ、やくそういっぱい、ある。やくそう、たべるとおいしいの、あるよ。いろいろためすと、いいね」


「そうかよ! こりゃあ堪らん、是非試さなきゃならんなぁ」


「あ、ジョンさん、おねがいある」


「なんだよ? 怖いないきなり…」


「イノシシの、ほね、いくらかもらっていいか?」


「あーーー、まあいいだろ。どうせ大した役にも立たないしな。けど、お前骨なんかどうするんだ? もしや…食うのか?」


「んーー、あたり」


「食うのかよ!?」


「おりょうりに、つかう。うまいものできるよ」


「骨で? どうやるんだ?」


「それ、ないしょね♪ あしたもってくるよ」


「お、おいカリバ!? …なんなんだもう、アイツ、『森の人』とかスペアリブとか、さっきのビールとかももしかして噛んでるのかよ? おい、イリ、リウロ?」


「だーかーらー、なんで俺とイリが結婚なんて話しになってんだよ? イリ! お前毒でも飲まされてるのか!?」


「リーウーロー、だからホップってーの? とってきたらけっこんしてあげるってー♡ カリバとさがしてくれるんれしょーーー」


「あーーもうお前、ホントに酔っ払っちまって! 俺より二つも下だってのに!」


「いいじゃなーい♡ さけけづくりのこがさけのんじゃだーめーっていうのーー♡」


「あーもうダメだこのヨッパライー! カリバ何とかしろ-!? カリバ-!?」


「……カリバならさっさと骨さらってどっか行っちまったよ。ホントにもうどうすんだこの里…」






 ジョン様がしょげた顔をして行っちまった。

 カリバさんは、拾った骨…足の骨とアレは背骨かねぇ、を持ち、すっかりと暗くなった里の外へといそいそと出かけていく。白狼もその後をてくてくと付いていくねぇ。




「……さて、カリバさんが一体どこに何をしに行くのか、この婆が見届けないといけないかねぇ。しんどいこった」


(´・ω・)  明日、休日出勤てどうなのよ?

ほんとにさぁ。

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