裂けめ
夏休みの宿題に飽きてラジヲのチューナーを回していたらその放送に行きあたる。
『此方は○○島✕✕山ラジヲ放送局です。
奴等が居住区がある島の中央部に押し寄せて…………』
放送を聴いて最初のうちはSF小説を朗読しているのかなって思ってた。
日本に○○島✕✕山なんてところは無い筈だし、小説サイトとタイアップしたラジヲ番組が、小説サイトで選ばれた作品を朗読する事があるからそれだと思ったんだ。
SF小説が好きな僕はチューナーを回すのを止めてその放送を聞き続けたんだけど、途中からそれが朗読じゃ無いって事に気がつく。
『私たち全島民は人食いの怪物に喰われる前に、一匹でも多くの奴等を道連れにしてやります。
大アジア連邦国に栄光あれ、人類に勝利を、サヨウナラ、サヨウナラ』
サヨウナラのあとスタジオから人が出て行く音がして、放置されたマイクが部屋の外の音を拾っているらしい。
『………銃を扱え無い者は竹槍を持て、それに手榴弾は1人3個だ。
パパとママも直ぐに行くからね。
ママー怖いよー。パーン。
(銃声がして子供の泣き声が途切れる)
来たぞー!
一匹でも多く道連れにしてやるぞ異次元の怪物共ー!
突撃ー!
バンザイ! バンザーイ!…………』
そのあと暫くは銃声や爆発音と人の断末魔の叫び声、それに得体の知れない咆哮が絡み合って聞こえて来た。
そして唐突に音が途切れ雑音だけになる。
チューナーを幾ら回してもその放送には行き当たらない。
僕は夢でも見てたんだろうか?
階下から聞こえたお母さんの「ご飯ですよー」の声で、僕は首を傾げながら階段を降りる。
階段を降りリビングにある点けぱなしのテレビの画面を見て、あれが夢でも他人事でも無い事に気がついた。
テレビの画面には、海水浴客でごった返す外国の海岸の沖合数百メートルの空中に大きな裂けめがあるのが映っていて、魚と人の間の子のような怪物がその裂けめから海にボロボロと零れ落ちている。
裂けめから零れ落ちた怪物は海岸に泳ぎつき、怪物を見て騒いでいる海水浴客に襲い掛かっていたからだった。