◆ 2・意識の操作(中) ◆
〈私、彼女を魔王の生贄に差し出したのよ? 自分の……ってか、一応人類の為になるとは思うけど……天界に攻め込むのを素通りさせるから地上に攻撃しないで的な内容だった。でもさ? 望みを叶える為だったわけで、された側は、流石に許せないでしょうよ〉
元天使アーラは状況を理解してないらしい。理解できるかはともかく、私は懇切丁寧に説明してあげた。彼女は、と言えば一言だ。
そう、だったの。
伝わってない事が分かる。改めて言葉を選んだ。
〈まぁ、身代わりよね〉
みがわり……、でもそれは、ミランダが多くのヒトを助けられるってことだよね?
〈……まぁ、物は言いようね〉
でもどうして、ミランダがシャーロットを恨むの?
〈……いやいや、そこまで言わなきゃ分からない? 元天使怖いな。私が差し出したからだよね!〉
だって彼女は、代わりに永遠の命を手に入れようとしてるじゃない?
彼女の言葉に思考停止だ。
多くのヒトを助けられて、永遠の命も手に入って、どうしてキッカケをくれたシャーロットを恨むの?
〈……死んだ、から……だよね?〉
死ぬことはそんなに困ること?
〈……困る、ってかイヤな事だよ……〉
アーラと話していると、自分が可笑しなことを言っている気分になってくる。だが、可笑しいのは明らかに元天使の方だ。
だが彼女は、ミランダに向かって口を開く。
「わたしはシャーロットの言うような、死ぬことの恐ろしさが分からないの。ごめんなさい……。でも、シャーロットが言うの。死ぬのはイヤなことなんだって……。でも今のあなたは、すでに死んでしまった魂で、捧げられた魂で、だから……」
「だから? だからあたしは受け入れなきゃいけないって言うの? このまま悪魔になれないまま彷徨う愚かな魂として過ごせと?」
「ううん。もう一度、死ぬの」
さらりと言うアーラに慌てて叫ぶ。
〈何言ってんだ?!〉
「もう一度、死んで……魂を清めて、新しい体へと移動するの。罪も穢れも消えて、綺麗な魂、キラキラと輝いて美しい魂にっ」
必死のアーラの説得に、ミランダの眉がピクリと動く。
あぁ、ヤバい。キレた。
だが、彼女は行動を起こさなかった。今までとは違い、短絡的な攻撃ではなく自制している。
「何もかもを、洗い流して……」
ルーファは歌うように紡ぐ。
「清めて、キレイに、新しく、全てをゼロにする。……そのシステムに加わりたいと思うヤツはいないんだ、アーラ」
彼は自嘲気味た笑みを浮かべ、視線を落とす。
「ごめんな。欲深くても、欲しいものがあるんだ。アーラ、だから俺様は……」
「……知ってるよ、ルフス。『全部』だよ」
彼が驚いたように顔をあげる。
同時に身体の支配権が戻る。
お、おぉ? いやいや、今はヤバイ!
同時にミランダの刺突の蹴り。慌てて身を捻って避ける。
「お、かえり! な、さいっ! お嬢様!」
爛々と光る目に、私は叫ぶ。
「取引しましょう!!」
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