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◆ 1・意識の操作(前) ◆


 身体が動かない……!



 まるで自分の体ではないように動かない体は、この場において死を意味する。

 一気に不安と恐怖が身体を震わせる。


「お願い、……もう止めてっ」


 喉を震わせ、出た言葉。

 身に覚え、どころか――考えもしていない言葉。



〈私じゃない……! なに、なんなの?! 今の……、アーラよね??〉

 シャーロット、少しだけ、時間をちょうだい……っ。

〈え……??〉



 呆然とした。

 彼女に身体を乗っ取られている。

 驚いているのは私だけではない。ミランダとて、ライラに止められた拳を引っ込め驚愕の表情を見せている。



〈そう……か、鎖か! よし、OK! 私が私じゃないって事でミランダとの鎖が薄まってるなら、攻撃されないって事よね?!〉



 胸に手をあて、祈るように『私』が語り掛ける。


「あのね、ミランダ。わたしには、シャーロットとあなたの間に起きたこと……全部はわからない。でもね、戦わないと……なぐりあわないとダメなことって、ないと思うの!」



〈いや、普通にある。めっちゃあるし、本当にいっぱいある。元天使に言っても無駄かもだけど、マジである〉

 シャーロット……、そんなことないよ。ちゃんと分かってくれる人だっていたの。だからきっと。



 理想と現実の差が分かってない元天使だが、突然死は避けられたので良しとする。

 ミランダの方も段々と混乱から立ち直ったらしく、すっかり据わった目で『私』を見ている。体を自分の意思で動かせずとも、見る物触れる物の感覚などは自分のものだ。

 自分でありながら、自分ではない不思議な感覚。


「どういう事? あんた、お嬢様じゃないわね? またなの? また違う人格なの? あんた病んでるの!? しっかり元に戻ってくれないと、殺しても意味が出ないじゃないの!!!!」


 床にザクザクと足を叩きつけ、穴開けながら叫ぶミランダ。

 気持ちは分からないでもないが、殺される為に戻る馬鹿もいないだろう、



〈おぅ……ミランダ。まさにYES。我々はすでに病んでいる認定されても仕方ない状態ですとも〉



「それで、逃げたつもり!? 戻りなさいよ、シャーロット・グレイス・ヨーク!」


 怒鳴られてもどうやれば元に戻れるのか分からない。


「シャーロットと話す前に、わたしと話して? きっと彼女があなたにしたことは、すごく重くて苦しいことだったんだと思う。……苦しめたんだと思う。でも痛みに痛みでかえしては……永遠にその痛みが続くの」

「……しかもまた、あんのクッソ……イイ子ちゃん」

「終わりない連鎖、それをどこかで断ち切らないと……っ。あなたも抜け出せなくなるわ」


 ミランダの気持ちとこんなにもリンクする日が来るとは思わなかった。彼女の言う通りだ。正論のイイ子ちゃんな元天使は、堕天した癖に清らかだ。

 私が堕天させた手前、文句も言い辛いが言う。



〈アーラ、無理あるわ〉




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