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◆ 30・なぐりあい(後) ◆


 彼女の放つ弾を、尖った拳を、槍のような蹴りを――全てを流し、弾いていく。

 同時にこちらの攻撃も頬に腹に腿に、当てていく。


 彼女の焦燥をまざまざと感じている。

 そして、私の中の天使の悲しみも、だ。



 ちょっと、泣かないでよっ!

〈ミランダ、痛い、感じる、痛いの……痛いって言ってるの〉

 だからなんなの? 止めたら私が死ぬのよ! だって、私とミランダの間には常に『殺し合い』があったのよ! これで清算できるってもんよっ。

〈……シャーロット……っ〉



 スカートの裾を巻き上げ放つ蹴りは、どれもが彼女を止める事が目的だ。止めるという行為の結果に『壊す』や『殺す』が結びついたとしても、だ。

 私の放つどれもが、確実に彼女にダメージを与える。

 属性を纏っているのだから、当然だ。まして闇の属性は使用者の周囲を――大気すらも押し留め引き寄せる。ミランダは動きにくいことだろう。

 彼女の腕を削るのは、ライラの刃だ。


「くそっ……なんで、あんたら……っ。ご令嬢様の癖にっ」


 そう、ライラがいる。

 彼女はいつも持っているという短刀二本を手にしている。こちらは無属性ながら、その技の切れは歴戦の兵士並みに鋭い。

 私の拳を避けた所へライラの刃が首を狙ってくるのだ。私だったら、とっくに手の一本も落ちている。


「貧乏ゆえに、磨いた技よ」


 ライラは淑女のようにスカートを抑えて挨拶する。さすが堂に入ってる。スライ先輩などは部屋の隅に退避しているのだから話にならない。



 あれ、フローはどこに……?



 ルーファは我関せずとばかりに壁にもたれかかって立っているが、妹の姿はない。



 まぁ、あの子が敵に回る可能性はないし? いいか。

〈どうして……どうして戦うの……っ。どうして、昔からそう……。戦わないでって、仲良くしてほしいのに、どうして……誰も聞いてくれない……〉

 アーラ?

〈ずっとそう……いくら、いくら願っても、届かない……〉

 それ、ルーファの?

〈ずっと、そうなの……〉

 アーラ?

〈勇者さま、どうして……〉

 アーラ? ちょっと、どうしたのよっ?



 様子の可笑しい内部に攻撃も乱れる。

 ミランダの鋭い一撃を躱す瞬間、ピシリと身体が痺れる。彼女の尖った拳が私の脇腹を掠る。布を切り裂かれて、大きく距離を取った。



 今……、一瞬。



 脇腹に手を当ててみる。傷はない。だが、何かが違うと気づく。



 手が……。



 拳を握り、開き、片足を上げ、下げ。

 違和感の正体に気づく。



 あんた、邪魔してる?

〈……え?〉


 ミランダの攻撃が迫る。蹴りだ。

 慌てて飛びのこうとするも、足が(もつ)れて転がった。



 やば……っ。



 キィィンっと高い音。

 ライラの薄いナイフが刺突を止めているのが目に入る。


「チャーリーっ、立って!」



 分かってる、分かってるけど!!



 身体が動かない。

 全く動かないのだ。



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