◆ 22・寝ても起きても地獄(前) ◆
朝の目覚めと変わらない起床だ。
ベッドから起きるように、スムーズに体を起こすも同時に襲い来る節々の痛み。おそらくは、床に倒れた時にできたと思われる打ち身なども混ざっている。
「姉様……、よかった!」
抱き着いてきたのは妹のフローレンスだ。
抱きしめる腕が強すぎて、首を絞め落とされそうだが、相手にその気はないと分かっている。穏やかな気持ちで抱擁を受けた。
残念ながら、それも長くは続かない。
問題はコレをどうするかよ……。
こちらが起きた事など気付かず、ライラとルーファはやり合っている。すでにスライ先輩は床に両手をつき、荒い呼吸を繰り返すばかりで動けそうもない。
〈ルフスを止めないとっ〉
ルーファを止めないと!
「ん?」
今なんか……?
〈シャーロット、ルフスを止めようっ〉
「あれ? やっぱり」
脳裏に響く声は、確かに聞き覚えがある。私の『片割れ』のものだ。
いたんだ? えーっと、……くそ、また名前出てこない! 天使のこの一々名前がひっかかる系どうにかしてほしいわ、えーっと、アーラ、アーラね? いるのね? あんたも一緒なのね?
〈うん。……今度は起きてるみたいだよ〉
引っかかる言葉はあれでも、胸をなでおろす。便宜上ルーファ名付けのアーラ呼びを、私もさせてもらう事にした。
一つの体に二つの心とはよく聞くが、まさか普通に傍にいる体になるとは思わなかった。
〈シャーロット、針が進んだの〉
針?
〈悪徳値の時計だよ。わたしが堕天したから〉
あぁ、私がそそのかしたって事になるのか……うん、まぁいいや。評価を受け入れようじゃないの。
天使を堕天させたのは確かに私だ。まさに悪魔の所業と言われればそうかもしれない。それも自分が地上に戻るためなのだから、針も進むというものだ。
とりあえず、ルーファってアーラが好きなんだから、アーラのフリして我に返すか。
〈どういう意味?〉
元天使には分からない話よ。
ライラが床に転がされた所で、私は大声を張り上げる。
「ルフス!!!!」
ライラの目が私を捉え、安心したように緩む。スライ先輩も驚いたように顔をあげる。無事を喜んでくれる友人がいたと知れた事は、嬉しい収穫だ。一時は殺し合い寸前――過去には本当に殺し合ったというのに、だ。
問題のルーファは呼び声に顔を顰めた。
あれぇ?
それどころか、ライラを殴り飛ばしているときですらもっと楽しそうな顔をしていた。
なになになに?! 何が気に入らないのよ?! そうか、可愛くか?!
アーラの姿を思い出す。一段階上での出来事は夢のようにふわふわとしていて、夢を見たような感覚に近い。遠ざかる記憶の中から、アーラの印象を必死で抽出した。
可愛い! 優しい! 穏やか! 大人しい! 可愛い!! よし、OK!
両手を胸の前で組む。
気分は天使アーラそのものだ。
「もうやめて、ルフスっ。私は大丈夫よ!」
ルフスの指が鳴る。
ん?
パシンと青い光が瞬く。
それは蛇のように、彼の周囲を駆け抜けていく。
「おい、……まさかそれがアーラって言うんじゃねぇだろうな?」
地を這うような低音。
彼は怒っていた。
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