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◆ 1・閉ざされた声(前) ◆


「ここは……?」


 夕日だ。

 夕日が建物の影におちようとしている。

 見上げた空は赤く焼けている。



 知らない場所だ。



 揺れる視界は微かに見切れて写る人の所為だ。

 誰かの腕に抱えられている。


 白い髪、赤い瞳、綺麗に整った顔だ。

 見覚えはない。

 瞬きをして、手を伸ばす。

 頬に触れた肉の温かみに首を傾げる。



 とても熱い……。



 違和感しかない世界。

 私を抱えている男が足を止めた。


「目が覚めたか? ここがどこか分かるか?」


 首を振った。

 どこか分からない。

 立てるかと聞かれて頷くも、降りて見た地面は硬くて、ガクリと膝をつく。彼が傍で支えてくれなかったら怪我をしたかもしれない。


「ごめんなさい……」


 立つこともままならない現状に眉をひそめる。

 彼が誰なのか以上に、私自身すらも分からない。


「あぁ、大丈夫だ。今はちょっと混乱してるだけで、すぐに『色々』と思い出せる」

「……あの、あなたは?」


 迷惑をかけている事だけは分かった。

 それなのに彼は嬉しそうに微笑む。


「俺様は、ベオルファ。大概の奴はルーファって呼ぶんだが、……お前には『ルフス』と呼んで欲しい、昔みたいに」

「昔……?」

「あぁ、ずっとずーっと昔だ」


 古くからの知り合いらしいが、同時に記憶がない事を申し訳なく思う。彼は気落ちする私を励ますように微笑んでいる。

 少しも気にした様子を見せないなんて優しい人だ。


「あの……ルフス、私」


 途端の抱擁。

 戸惑いと困惑。


「これからも呼び続けてくれ。俺はお前の為なら……なんだってできるから」



 なぜ、彼はこんなにも泣きそうな声を?

 分からない。何これ?? ここは何処? 全てがわからないっ。知らない世界、あんな赤い空を私は見た事がない。空がどうしてこんなに遠いの? どうして私の羽がないの? 羽が……、翼が……。



「悪い魔女をこらしめて」


 彼は続ける。


「そうして、早く『肉』も取り戻そうな」



 コレは誰だ?

 あぁ、思い出してはダメな気がする……、なのに。

 私の意識の全てが言ってるのに!

 羽がないって……空が飛べないってっ。

 でも、思い出してはダメだって……。



「……ね、が……、私、の」


 彼の手が私の背をなぞる。布越しでも分かる、翼がある場所だ。

 私の口から絶叫がほとばしる。



 そうだ、私……っ、私の、はね……っ!!!!



 見上げた先には憐れみと慈愛の混ざった男の顔。

 この顔を私は知っている。


「る……ふす……、どうして……?」



 どうしてあなた、私の翼をもいだの?



「……ごめんな、アーラ。今は混乱してるだろうが、すぐに落ち着くから。今はシャーロットの体に慣れてくれ」



 シャーロット??



 覚えのある響きだ。

 彼の手が私の頬に添えられた。


「俺様の目を見ろ。誰が写ってる?」


 赤い瞳に写る知らない顔。


「だれ……?」

「お前を閉じ込めていた、シャーロット・グレイス・ヨークの『肉』だ」




第二部突入ですm(_ _)m


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