◆ 2・ミランダの逆襲 ◆
「お前、捧げちまったのか」
しみじみと言う悪魔。カエルの視線も受けても、私に疚しい事などないと胸を張った。
「だって先に手を出したのはアッチじゃない。私、焼死しかけたのよ? 焼死のキツさ分かってんの?」
「でもチャーリー、悪魔に捧げるのは……」
カエルは反対派らしい。
だが悪魔らしさもなくルーファはポカンと口を開けた。
「え? お前、復讐半分でヤッちまったのかよっ」
「そ、それだけじゃないけど、まぁ他に選択肢もなかったし?」
「分かってんのか、お前?! 事の重大さが!」
何故にルーファがこんなに……?
意味が分からず、次の言葉を待つ。ルーファはウロウロと周囲を歩き回り、頭を抱えて座り込んだ。
「やべぇぞ、お前」
「何が」
「悪魔に捧げられた人間ってのはな、食われる」
少しは良心が痛むのだから、改めて口にしないでもらいたい。
「食われた人間は、悪魔として転生する」
「……え?」
「悪魔として転生する」
ルーファは再度言った。
大事な事らしい。だが、少しホッともした。そこで終了死亡でないなら、少しは気持ちも軽くなるというものだ。こちらだって、悪気があってあんな真似をしたわけでも――なくはないが、それでも格段に気持ちは楽になる。
「……チャーリー、よーく聞けよ? 人間が悪魔として転生するってのはな。結構難しいんだよ。食われてポンと悪魔になりましたってんじゃねぇんだよ」
「……つまり?」
「人間の欲とかそういう執着を捨てる必要があるんだよ。俺様たち、これでもお前らより高次元の存在だからな」
要領を得ない説明に、私も奇妙な顔になる。
ルーファは大きなため息をつく。
「チャーリー、お前さ、そこのヤツに殺されたとして復讐してぇって思わないか?」
「思うよ?」
「それが邪魔なんだよな。仮に復讐したらどうだ?」
「スッキリするね?」
「だよな」
「え? ルーファ、ちょっと意味が分からないんだけど? ミランダは、とりま食われる地獄があってもその後には高次元存在に転生できて、ハッピーって事だよね?」
彼は大きく首を振る。カエルが何かに気づいたように口元を手で覆っている。
「え? 何??」
本当に意味が分からない。
「あのな、大抵は捧げた人間への復讐完了後に低次元欲求の昇華、転生完了って流れなんだわ。ここまで言えば分かるよな? この後の展開」
分かりたくないっっ!!!!
まさかっ、それって。
「そうだ、チャーリー。お前の想像通りだぜ」
「いつから、ルーファ、心が……」
「いや、お前の青ざめた顔みりゃ分かるだろ……。だから、良くあの女を差し出したよ。お前、これからどうやって生き延びるんだ? 人間時代とは話が違うぞ? それも俺様の母分にあたる力を貰っての転生だ」
待って待って待って?!?!?!
ミランダを悪魔に捧げた私、ミランダはソレが分かってる!
「ねぇ、ルーファ……ぶっちゃけこの後の展開、……マジでぶっちゃけてみてよ……」
震える声にカエルもゴクリと唾を飲み込む。
「ま、通常で行けば、数日中には不完全悪魔として転生ミランダが出現。お前を殺し復讐という執着の昇華後に昇級する。完全なる悪魔として確立、永遠に生きるだろう」
最悪だ……自分のやらかした事だけど、最悪じゃん!!!!
ちょ、待って、私の中の、えっと、名前……あの天使! 差し出すって話にしてたけど、そっちはどうなるんだ?
「ね、ルーファ。それの天使とか差し出したパターンとかだったらどうなるの?」
「天使は、元々悪魔に堕ちるモノだから捧げるとかは聞いた事がねぇな? できるもんでもないと思うしな? なんでだ? あ、お前! こないだのあの天使野郎を差し出せたらいいなとか思ってんだろ! 無駄無駄。あの天使野郎は、あー見えてヤバい」
いや、あのおっさんではないですけども。ってか、捧げられないなら……なんであの魔王は欲しがったの? いや、それは後で考えよう。そもそもあの天使への兄の愛を考えれば、あそこでどうにかするでしょ。なんなら忠告してやってもいいし?!
「ミランダはどれくらいで復活してくるのかな?」
ルーファに問いかけるカエル。
「そこはそいつ自身の抱える闇次第だな。わかんねぇ」
「ミランダ、来るのは……確定、なのね??」
「間違いなくな。お前ちょっとは身体鍛えてるみたいだが、不完全でも悪魔なめんなよ。瞬殺されんぞ」
自分の起こした結果がコレだと分かってる。それでも思わずにはいられない。
祈る対象を教えてくれ……そうしたら全力で金を注ぐし、祈るし、身を投げ出すわ。正解を教えてくれ、そうしたら私、敬虔な使徒として、頭を垂れ、掲げるし、なんだってする……。
なんで、こんなに救い道くれないかな?!
どうかしてんじゃないの?!
「分かった。とりあえず、急いでこっちの魔王を探す。探し出して護衛してもらう! 悪魔が何よっ、こっちは魔王の護衛だぞってね!? どうよ?!」
「落ち着いて、チャーリー。そんな簡単に魔王が見つかったら苦労しないしさ。それに、ミランダが君を恨んでるかは分からないし」
「あんたは人が良すぎるのよー!!!! 普通、悪魔に捧げられたらブチ切れるって!! そもそも私をさっき焼死させようとしたのミランダじゃん! 殺って殺りかえす! これって私たちの間にある不文律よ!!!! ずっとそうだったもの!」
わっと泣き崩れる私の背をカエルがペタリペタリとさする。
「落ち着こうよ。君とミランダの間に何があったのかは分からないけど、会えたらまずは謝罪から入ろう? ボクも一緒に謝るからさ」
「あんた……殺してごめんなさいで済む世界あると思ってんの?」
低い声で見上げる。カエルは視線一つ揺らさずに頷いた。
「復讐に復讐して、ずっとソレを続けるのは疲れるよ。憎しみもいつかは風化してしまうんだよ。それが悲しい事だと思う人もいるだろうし、悔しいと思う人もいるかもしれない。必死に憎みたい人もいるね。チャーリーはどれを選んでるの?」
「……私はまだ、そんなに達観できない。復讐は迎え撃つ……」
「じゃあ、向こうに匙を任せるの? どっちが勝ちかって言ったら、ボクは先に匙を投げた方だと思うけどな」
カエルの世界は政治の世界かもしれないし、人間の欲をたくさん見る立場だったからこその発言かもしれない。それでも納得には遠い。
「チャーリー、悪役に割りふられたってオリガが言ってたけどね。何事にも抜け道はあると思うよ」
「でも、……でもさ? 相手は殺る気でくるよ?! 今回、完全復活がかかってるんだから!」
戦うしかない。自分が起こした事でもあるし、受け入れて、待ち構えて、倒すしかない……幸いこっちにはルーファがいる。
チラリとみれば、悪魔は首を振った。
「あ、悪いな。俺様も仲間の転生問題には悪魔の規約的なもんに引っかかる。手伝えねぇ」
「悪魔の規約ってなんなのよ!!!!」
思わず叫ぶ。
「そ、そうだわっ。カエルの守護神!!!! あの鳩!!」
「え、いやモリガミ様は、その制約があるんだよね……色々と。プリンス・オブ・コンクエストにだけ力を使うっていう……規約になるのかなぁ」
なんなのよ、ソレ……。え? ちょっと待って???? 只の人間が、悪魔もどきと1vs1で殺し合い? あんの魔王っっ、言っとけよ!!!!! あぁぁ、私のバカバカバカ、なんでミランダを捧げちゃったの!? そんなのなら私が食われて、悪魔転生したかったし!!!!
ってか、それってハッピーだったんじゃないの?!
「俺様、お前って勇気あるなって思ったぜ? 実際、捧げても旨味が低いからな? 最近じゃ捧げものにするパターン全然聞かねぇもん」
「あぁ、ルーファ。その手の話があんまり人界にはないんですよ。封じられた文書とかには残っているかもしれないけど」
「そうなのか?」
ルーファとアレックスは呑気に話している。私は大地に手をつき、面白味もない地面を見つめた。
どうするっ、ミランダの逆襲をどう生き延びる……?!
なんてこった……本当に……、あぁ、コレが……後悔ね!? 知ってたよっっ!!!!
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