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◆ 4・天使の半分 ◆


 私、天使らしい。



 オリガの衝撃発言に、天使のおっさんが浮かぶ。

 勿論、私に翼があった事はない。


「それ、どこ情報よ……」

「オレ情報だよ!」


 胡乱な目を向ければ、オリガが叫ぶ。


「正確にはお前の中の半分だ。オレがこっそり混ぜ込んだからな」

「何してくれてんの?!」


「まぁ、聞け。オレとて、こんな手を取りたくはなかった。『あの』天使を脅す為にはやはり身内を盾に使うのが一番だと思ってな! 人間の器に転生するようにいじくってやったのさ! 必死で犬のように地上を彷徨う様は笑えたぞっ、オレはココで何度も笑ってやったもんさっ、人間の生は短い、見つけた時には時すでに遅し、死亡で転生へ回される。まぁあちらも執念深くてな。ついには見つかってしまったわけだが……」


 カエルが途端に一歩踏み出す。


「待ってください、オリガ。天使は人間を呪いましたよね? 話は物騒でしたが、見た感じでは……アレは間接的に我々を支援したようにも思えるのですが」

「いや、カエル。今そんなのどうでもいいし……むしろオリガ、今『身内』って言った?」



 身内を盾に。

 つまりはあのおっさん天使の身内を盾にしたのだ、オリガは。

 そして今の話題は、私の事……。



「あぁ、そうだ。お前はヤツの身内だ」

「ソレって種族的な意味?」

「……残念ながら、あの変態はお前の兄に当たる」


 私は突っ伏した。



 アレが、兄?????

 いや、一人っ子として時代が長かった私は兄弟が欲しかったさ! 結果、来たのは妹だったけども。欲目を言えば兄とか姉の方が万倍欲しかったさ!

 どれだけ、……どれだけ私の人生過酷なの????

 よりによって、あんな髭のおっさんが兄????



「浮気性の父、斧ぶん回すメンタル弱者な母、闇強め系の聖女な妹に、覇王相持つ癖にカエル選んだ婚約者、憧れだった人物はコミュ障の引きこもり……で、兄は髭の半裸天使?」

「おい、失礼だな」

「ご、ごめんね、チャーリー」



 いやいや、先走るなっ。

 オリガが本当の事を言ってるかなんて誰にも分からないんだからっ!!



「まだ、それが本当とは言えないわ……。なんで探し求めた存在だっていうなら、あの天使おっさん、あんなだったのよ! 間違っても、会いたかったって感じ、欠片もなかったからね!!!」


 オリガはニヤリと笑う。


「それはな、オレと天使の協定の関係で、お前が呪われてるからだ」

「呪い?」



 死に戻り以上の呪いってなんだ??

 あ、いや、アレは刑罰だったか。



「アイツがお前に真実を話せば、そこでお前は死ぬ」

「死に戻りループ終了?」

「終了どころか、魂ごと根絶する」



 もぅ、それでも……良くない?



「ヤツはヤツなりに、お前の中の『天使』を呼び起こそうと試行錯誤してるんだろうよ。このオレの呪が簡単に解けるものか、愚かな事だ。あちらも折角見つけた妹を無事に保護したが故に、時間措置としての箱庭まで用意した。だがオレの介入は予想できてなかったろうよ」



 マジか……。

 ってか、待って……?

 これって、悪魔だの聖女だのオリガだの……より私、天使側につくべきなんじゃ?!



「いやいや、呪文ってオリガに会うためのモノよね? 私が使えば神の愛を失うって言ってたよ?!」

「そうだ。オレがそのように呪ってるからな」

「……いや、整理してもらっていいっすか?!」


 私が叫ぶのも仕方ないと思いたい。

 何せ事情が入り組んでいる。

 カエルとて微妙な顔をしているのだから、混乱しているのは私一人の話ではないのだろう。


「神の――たる天使は地上に――としている。魔王と聖女は戦って――を止めようとしているが、彼らには関係のない事。いつも魔王vs聖女勇者の連合軍がやり合っていた」

「うんうん、穴だらけだけどフワッと理解完了なので、先よろしく」

「だが、どちらが勝とうとも聖女は死ぬ事で世界を――。オレはソレが嫌なので、天使の一人を人質にした。怒った天使は人間を呪った。人間は神を――た。この――というのは、神の――という意味だ」

「おお。カエル、分かった?」

「聖女を死なせたくないから天使を人質にして、死なせなかったって事じゃないかな?」


 彼女はまたも鷹揚に頷く。


「元々、あらゆる病が――で治癒できていた。それができなくなった事が全てを体現している。実際、今の世の中には――は余程の腕でないと使いこなせなくなってきたろう?」


 これにはカエルも頷く。


「おそらく、神代にあったといわれる聖魔法の事を仰ってるんですよね?」

「オレ的には神の――となる――を聖女教こと啓教会にシフトさせる事で、元来の神――にしてたので、小さな問題だった。当時は結構大騒ぎになったがな」

「ほう。つまり聖魔法がなくなった原因の話ですね」

「そうだ。今の魔法は――ではないな。――が、独自に開発した治癒魔法でしかない」



 なんとなくの理解だ。

 たが問題ないだろう。というか、そもそも世界の成り立ちやら何やら、自分に関わらない限りは、最低限知っていれば十分だ。知らなくても困らない事だし、知っていれば博識扱いされる程度の事象だ。

 そもそもオリガの発言は抜け落ちすぎている。

 呪われているのか何なのか分からないが、一度その呪いの方をどうにかしてから出直していただきたい。



 実際、今の話、私に関係なくない?

 すでに聖魔法じゃなくて回復魔法主流で普通に動いてんだし。



「で、だ。オレはオレのやろうとしている事の邪魔をさせない為に、お前を人質として捕らえておく必要があった。それはもう、永遠に近い牢獄のような場所にな」



 おぅ、やっと私の話題か。



「――ない天使を人の殻に閉じ込める事で――を与えた。お前は半分人間で半分天使として――を繰り返している」

「つまり?」

「天使成分が半分あっても人間っぽい状態って事だ」

「そんな事できるの?」

「出来てるだろ。で、あの天使はそんなお前の天使部分を目覚めさせたいのさ」


 首を傾げる。

 違和感が付きまとっているのだ。そもそもおっさん天使が私に望んだ事は『聖女の覚醒』だ。


「私の天使部分を目覚めさせるって、実は私が聖女だったとか?」

「いや、ソレはない。聖女はお前の妹フローレンス・メイ・ヨークだ。それは見れば一目瞭然の事だ」

「じゃあ、私が天使開眼すると聖女も覚醒しちゃったり?」

「ソレもない。だが、お前の問いたい事は分かっている。恐らくお前は、天使に会ったな?」



 ん??

 天使のおっさんに会った事を知らないの??



「大方、あの『停止』した時の中だな。聖女の覚醒を命じられたわけか? 成程。それはそれで、オレの邪魔にはならない。良い事だ」


 一人頷き、何かに気付いたように彼女は含み笑いを漏らす。


「いや、質問に答えて欲しいんだけど?」

「そういうわけで、シャーロット・グレイス・ヨーク……いや、天使」


 近づいてきた彼女が言葉を切り、両手が私の頬に触れた。

 目の前に神秘的な紫の瞳がある。

 その中心には黄金の光が明滅。



「 【 エル・ロリス 】 」



 ダメ……っっ!!!!



 内部――脳とも心とも言えない、深い深い部分が叫びをあげる。

 だが、遅い。

 一瞬の差で、オリガの瞳に揺蕩う黄金色の光が私を染め上げた。



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