◆ 4・通訳が欲しい魔王(後) ◆
〈言葉が……って、いや……普通に話してるよね?〉
うん、がんばってる。
彼は神妙な声で言う。
その間にも、母親らしき人物が私ことエイベルの身体を抱えて色々世話を焼いているわけだが――。
〈えーっと、今は完全に、問題なく……通じてるよね?〉
うん。
考えてみれば、彼は今まで片言よりはマシ程度の会話レベルだった。
子供だからそうなのだろうと思っていたが、どうやら原因は他にあったらしい。
〈あんた、自分が魔王って……〉
その前に聞いてほしい事があるんだ。まさに、その魔王についてなんだけど、オレは魔王やりたくない。
これに関して驚きはない。最初からそれに近い事を言っていた。
オレの名前、そもそも『エイベル』じゃない。
〈まぁ、拾われたんだし? 元の名前はそうなんでしょうね〉
違う。
オレ、この世界の枠外にいたんだ。
〈まぁ、……魔王も聖女も特殊生物らしいし、枠外でしょうね?〉
……だから、違うって。オレ……異世界人なんだよ。
ポカンとする。
意味あいは恐らく理解できた。
〈イセカイ、異世界? 別の世界の人間って事、よね?〉
あっちで死んだら、処理が追い付いてないから時間欲しいって。空きの身体があるからって。それでこの身体に入れられて、言葉も分かんないし、ちょっと理解しがたいほどファンタジックで困ってた。
〈……待って? じゃ、あんたって魔王じゃないの?〉
不安から問いかける。
魔王は魔王らしいよ。あんたのオヤジが言ってたし。もともと外国語とか苦手だったんだけど、今回は生活がかかってるしさ? 少しは言葉おぼえてんだよ。
今後はあんた、オレにも分かるように伝えてよ。
今までと違ってまともに話してみれば、彼は人間らしい感性を持っているように感じる。
〈なんか、イメージ壊れるわ……エイベルのクールなイメージが〉
そんなのないし。ってか、前の魔王が取っていかれたらダメな部分を取っていかれたから、オレを入れて安定させる必要があったんだってさ。そう、あんたのオヤジが言ってた。
〈お父様!?〉
ある意味、父がこの魔王聖女ゲームを制している。
赤子の彼をあやしていた母親が、微笑む。
「エイベル、いい子ね……、少しだけ、我慢してね……」
彼女はそうして赤い水の入ったコップをエイベルに近づける。
〈お酒?〉
血だよ、聖女の。
〈フローの?!〉
一瞬、年齢換算をしてしまったが、聖女の血というからにはフローの血としか考えられない。父は一体いつからフローの実験をしていたのだろう。
この血を飲むとさ……、意識がもうろうとするんだ。
〈魔王の、覚醒をさまたげるため?〉
さぁね。
あんまり興味ないかな……。
エイベルの言葉はどこか空虚に響く。
赤子はミルクの代わりのように、聖女の血を飲み、静かに眠った。
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