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◆ 25・記憶の穴(後) ◆

 フローレンスが斧を床に打ち付ける。

 硬い音が響く石室で、彼女は言う。


「……じゃあ、三日……待ちます」



 たった三日かよ!!!!



「こ、この部屋からは出してくれるのよね?」

「こういうのって……先延ばしにするだけ未練が出ると思うんです」


 神妙に言う妹にきっと悪気はない。おそらく私も他人がそんな事を言っていたら、未練がましいと思ったに違いない。

 だが、所詮は自分だ。


「三日だけ待ちます」


 彼女の言い方には少々引っかかるが、それでもこの部屋からは出られそうだ。少しだけ胸をなでおろす。

 今は三日と言えど喜ぶべきだろう。

 ゆっくりと警戒しながら彼女の隣を通り過ぎ、部屋の木戸を開けた。

 ギギィと気味の悪い音を立てて開いた先は、石の通路が続いている。


「フロー……出口まで案内してもらえるんでしょうね?」

「いいですよ」


 彼女は先頭に立って歩き出す。

 ついていけば、ヘクターに後ろを取られた形となった。



◆◇◆



「ここ、どこなの?」


 長い通路の無言に耐えかねて聞けば、後ろから返答が返った。


「旧遺跡だよ」

「……へぇ」

「何の遺跡か気になる?」


 もともと煩さに定評のあるヘクターは会話を続けようとする。


「何の遺跡よ」

「オリガの死んだ場所さ! 悪役終焉の地ってやつ」



 あれ? オリガの死んだ場所って……西国じゃないような?



「ココってまさか……」


 立ち止まる私に、妹も立ち止まり振り返る。


「そうです。長距離移動の魔法ですね。ここは教団が管理しているので、お姉様も死ぬ時にしか来ていないかと思います」



 長距離移動の魔法って、何人も協力して発動するタイプよ? こいつら、二人っきりじゃなくて、他に仲間がいるって事??

 そうよ、……ヘクターもフローも魔法は……。



「あんたたちみたいなタイプに協力してくれる人がいるとはね、驚きだわ」


 なるべく高慢に聞こえるよう配慮する。

 フローはまた歩き始めた。


「ええ、協力者はいます」



 それにこの魔法を使えるのは高位の魔法使いたちで、金額も結構よ?

 それなりの有力者が仲間になってるって事よね? フローが聖女である事を踏まえるなら、反教団系ではないし、……いったい誰が。



「お姉様、歩いてください」


 仕方なく歩き出す。

 ――それからどれほど歩いたか――辿り着いたのは、青く光る部屋だった。

 光る苔が岩にみっしりと生えているのだと気づく。


「どうぞ」

「は?」


 フローレンスに「どうぞ」と言われ、混乱する。

 見る限り、行き止まりだ。

 そして、辿り着いた先には移動魔法の陣があるとばかり思っていたのだが、それらしきモノは何もない。床まで苔に覆われた空間には陣など見えない。


「お姉様、中心に立ってください」

「え? ここが魔法陣なの?」

「ですよ」


 周囲を見回すが、自分を含めて部屋には三人のみだ。


「誰が発動するの?」

「彼らがします」

「……かれら??」


 フローレンスが指し示す先には、苔。


「コケ?」

「はい。苔です。お友達で、協力者です」


 ふと、子供の頃から動物や植物に塗れていた妹の姿を思い出す。



 うん、深く……考えまい。



 私は中心に立ち、溌剌と命令した。


「さ! 早くしてちょうだい!」


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