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◆ 23・記憶の穴(前) ◆

 フローはリスタートを見てきたんだわ。

 失敗も成功も……って、私に成功の記憶はないんだけど……そこは今は無視して、少なくとも私のリスタート人生を見てきた経験から、失敗パターンを読んでるって事よね?

 問題は、その私の知らない、いくつかも知れない――悪役成功軸を知ってるって事よ!



「私、その記憶ないんだけど?!」

「成功例ですか?」


 小首を傾げる妹に大きく頷く。

 成功例が本当にあるのなら、ぜひお伺いしたいところだ。



 でも私のリスタートよ?? 私が記憶にないなんて、ありえるの?



「成功例ではキレイな灰色でしたよ」



 色で言われても……。


「フロー……、もうちょっと具体例でお願いできる?」


 具体的に何をすれば成功に近づくのか知りたい。素直に教えてくれないのだろうと高を括るも、彼女は朗らかに応じる。


「お姉様がたくさん捧げ物をしたルートです」



 響きよ……。何よ、捧げものって……っ。



「つまり、……私、何人くらい……やっちゃったの?」


 ドキドキする胸を抑える。


「ごめんなさい、お姉様。人数は分からないの……」


 心底申し訳なさそうなフローレンス。

 全く要らない気遣いだ。


「社会機構が終わっちゃってたもんねぇ」


 ヘクターもしたり顔だ。


「私、何したの……!?」

「学園を火の海にして、オリガの再来って呼ばれ始めてましたよ」



 いや、……それ、先輩がやった事で……私はいつも、被害者で……。って、まさか私がやる側になった軸があるなんてっ。



「それ、見間違えってパターンない? 私の記憶に一つもそんなのないわ! ケチな盗人やった事があるくらいよ? あっ、後は……っ」

「お姉様を見間違えたりしません」


 頬をふくらませる彼女から目をそらす。



 どういう事?

 まるで先輩のした事よ? 本当に私……、私の記憶がない頃のリスタート。そんなの、リスタートの意味がないじゃないないの、おっさん天使だって、そう……、そう、だ。



 ふいに一つの可能性に思い至る。

 リスタート人生で、私が記憶にない時期はあるのだ。それは最初の頃におっさん天使が説明した事だ。

 私が十六歳からやり直す理由でもある。



 最初の頃のリスタートで、私は幼すぎて……心だか魂だかが安定しなくて? 記憶が残らないって言ってたわ! そうよ!! だからある程度の成長した姿でやり直しをって……そうだわ、その頃、おっさん天使が私を導こうと側についてた時期があるとも言ってったっけ?

 なんて事よ……っ。



 大天使が側で指示していたのだ。当然、成功に近づいていただろう。

 フローレンスが言ってるのはきっとその頃の事だ。



 それに、そうだわ。おっさん天使が私について色々指示してた過去って、結局、我が家に天使が入り込んでるっていう話にも通じるわけで……。

 おっさん天使の事だったのね!



「何だか、納得されたみたいですね」


 一歩――歩み出る彼女の手には、いつの間にか例の斧が握られていた。

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