◆ 20・ヘクターとフローレンス(中) ◆
「何でよ! 何で殺さなきゃなわけ?! 改善すべき所があったら改善するわ、私」
狭い石室での大立ち回りなど、敵の排除どころか全員巻き添え生き埋めコースだ。
フローレンスに縋るような視線を向ければ、彼女は優しい笑みを浮かべ、夢心地に呟いた。
「お姉様は、やり直せます」
はい? ……え?
あれ? フローって私のリスタート、知ってるんだっけ?
「お姉様はやり直せますから、やり直しましょう! そうすれば元の綺麗な混じり合った灰色のお姉様に戻れます」
アーラと私の色の話なら、私が死に時間が巻き戻ったとしても元には戻らない。アーラは一段上だか下だかの存在なのだ。
彼女はこの世界より外の存在で、共に巻き戻る事はできない。彼女の進んだ針は戻らない。
「戻らなかったら、どうするのよ」
「何度か、やりましょう。いつか戻れます」
ダメだ。
やっぱり私はこの妹が苦手だ……。
石の天井を見上げ、呆然とする。
彼女は信じて疑っていない。何度でもやり直して、自分の求める私になる事を――。
だが、一体何がそこまで妹を引き付けたのか、私には分からない。
そんな特別なことをした覚えがないのだ。
フローの中にいる私って妄想の産物だわ。
「フローレンス、もう戻れないの」
きっぱりと告げる。
「戻れますよ、お姉様」
「いいえ、無理よ。私の中の『白』が、そう言ったから」
フローレンスは黙り込む。
驚くべき事にヘクターが援護してくれた。
「うんうん! こっちとしては、お姉さんの血さえ貰えればいいし? 生きててもらった方が都合がいいかな。殺していいなら、さっきしてたし!」
「ですよねぇ……ってか、死んだと思いましたし?」
「魔王少年を相手にするのは面倒だし、覇王いるしね! まだ殺しはしないよ! 約束したじゃない?」
ヘクターが常識人に見えるとは、世も末だ。
「……一回、試してみませんか?」
フローレンスが言う。
おい?!?!
「何を?!」
もちろん分かっている。
一回死んでみようぜ、というヤツだ。リスタートがあるからって簡単に言わないで頂きたい。
これだから、死を経験してない奴は!!
いや、経験はしてるけど。記憶ないなら、ないも同然よ!
「お姉様、試してみましょう?」
再度言うフローレンス。
「新味のお菓子じゃあるまいし、嫌よ! あんたが死ねば!」
「それは……イイ、ですね」
うっそりと笑った彼女は、壁に額を打ち付けた。
自分の、頭を――だ。
「な、にして……!?」
慌てて彼女の腕を掴み、羽交い締める。親友とやらのヘクターは面白そうに傍観している。
垂れた血もそのままに、妹が私を振り仰いだ。
「だって私が死んだら……、お姉様はやり直すしかないでしょう?」
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