◆ 18・闇討ち(後) ◆
フローレンスが振りかぶる斧は太陽光に照らされ、ギラリと光る。
幸い一撃は窓枠を削り斬り裂いた。
避けたんじゃない。
転けたのだ。
彼女の振りかぶった斧が予想以上のスピードでこちらに向かってきたから、腰が抜けたように体が動かず、転がったのだ。
家主母娘が悲鳴をあげて部屋から出ていく。
彼女はうっすらと笑った。
「よく、避けましたね」
違うし。
「次は外しません」
瞳の輪郭が青く光る。
「待っ……!」
横薙ぎに迫る斧から、慌てて前転回避。
――が、彼女は空振った勢いのママ反転し、斜め降ろしの振り切り一撃。
からくも身を翻す。
床にザックリと刺さった白光りする凶器に視線を止めた瞬間、腹部に衝撃が叩き込まれる。
蹴られ……っ、た……!
私の体は食卓に激突し、ゴロゴロと転がった。
「ま……っ、て!!!!」
詰まる息の中、根性で声を出す。
「わ……ったしは、姉だぞ!?」
「違います」
「ち、違わないわ!!!!」
なんで本人否定を他人にされなきゃいけないのよ!
ってか、何に持って、本人認定されてないの?
「フローレンス……、あんた、どこ見て違うって言ってんのよ。キツい態度が良いなら前みたいに対応してやるわよっ」
「色が違います」
色? まさか服の色?
「お姉様は白と黒が混ざりあって、とても綺麗な灰色だった」
「は?」
「あなたは黒一色。二つを持つのはお姉様だけだったのに……」
なんとなく思い当たる部分はある。
理解は出来ずとも、彼女の言う色とやらはアーラと私を指しているのだろう。
アーラが消えた?
いやいや、話せなくなっただけで消えては無いはず、よね? え? 消えたの?
「ま、って……よく見てちょうだい! よーく見て! いるよね?? 白も?! アーラが消えたなんて……っ、そんなの!」
縋るように叫び、両手を広げる。
彼女は私をジッと見つめた。
息すら止めたような時間が、数秒とも数分ともしれず流れた。
「……ぁ」
彼女の小さな声を象徴するように、瞳が見開かれる。
良かった!!!! いたのね?! アーラ!!
「じゃぁ、コレはお姉様?」
首を傾げるフローレンス。
現在の、脅威も去りそうな予感に心も弾む。
「そう、そうよっ、フロー! あなたの愛する姉よ!!!!」
見た目で判断出来ないらしい事には愕然とするが、相手は人外なのだ。
そういうモノと割り切るしかない。
「……でも、大きさが……」
「あんたが言った通りよ! 綺麗でなくとも二色混ざった人間が他にいる?!」
「います」
「え?」
「でも……お姉様な気がします。前に白が大きくなって黒が小さくなった時と同じ、な気がします」
あっ、アーラが、乗っ取ってたあの時ね!?
って事はアーラは一段上の世界にいる?
ホッと息を吐く。
アーラが無事であると思えた事は大きいし、妹も武器を振るう気配が、消えた。
「良かったわ、わかってくれ……っ?」
咳き込む――瞬間、口から赤が飛び散る。
え……?
熱さを感じたのは一瞬で、直後に強く背を殴られたような衝撃が走る。
「おやすみぃ」
耳元でヘクターの声。
そんな、ここまで……来、た……のに……っ。
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