◆ 29・悪役会社システム(前) ◆
先輩に殺されてきた軸の事を考えてみれば、いつも不意打ちだった気がする。
ある意味、先輩らしい。確実に倒せる状況からの奇襲。目的や意図を悟らせずに、結果を出してきたのだ。
そして、先輩も大量殺人を行った理由の一端に気付いた……。『何故』が解消されてしまった以上、敵対状態が始まる可能性は大。
全神経を先輩に向ける。
いきなり刺しに来られても可笑しくない。いらない情報を開示したモニークを呪いたいくらいだ。
「シャーロット・グレイス・ヨーク……」
先輩が私の名を呼ぶ。
「なんでしょう?」
よし、隙次第でこっちから……!
「お前の部下になる」
「……はい?」
一挙手一投足に意識を集中してただけに、彼の言葉こそが不意打ちだ。
先輩は再度言う。
「お前の部下になろう、と言っている」
「それは、聞こえましたけど。……何故、というか、何の意味が……?」
「デスマッチしたいか? 俺はしたくない」
「それは……私も」
「だろう? まして行き着く先が見えている。大量殺人の未来だろう?」
確かにそうだ。
私は自分の死を回避したつもりだったが、先輩の殺人者未来も共に潰してきた事になる。
家族の復讐というよりは、家族の為に悪役覚醒したってことか。
たとえば愛する妹ドロシーの為とか。
「悪役が一人である事は決まっていて、席次の取り合いである事も分かっている。選出方法は誰がどう殺してもいいと分かっている」
「え、そう?」
「カリムが他候補者を処理するとした簡略コース、俺が過去に犯したというお前を含めた大量殺人。殺し方や、殺す場所、殺す側も自由という事になる」
そう言われたら、そうね?
でもだからって部下になればいいってもの?
聖女は死ぬ事で光エネルギーのようなものを世界に放出するのだ。悪役の力を魔王が徴収するとも聞いている。
悪役が死ぬ事で、他の悪役に力を引き継がせるのだとすれば、先輩が私の臣下に下ったところで意味はない。
でもそれを言ってしまったら、殺し合いしかなくる……っ。
「じゃあ、先輩の臣下入りを受け入れます」
「いや臣下じゃない。あくまで部下だ、最初は、な」
含みがありすぎる……。
「悪役会社を経営しようと言っている。まずはお前がボスだ。学校と同じだ、ミスに点をつけ、赤点でボスチェンジだ。これはもう一人だか二人だか知らないが、そいつにも話す予定だ」
「先輩、戦って決めましょう」
「……は? これ以上、合理的な話が他にあるか?!」
「合理的でもテストはイヤですね」
「……殺し合いの方がマシだと?」
先輩の話から考えるに、机上のサバイバルだ。それも最初にトップについた人間に勝ち目はない。
「恐らく、お二方の前提条件が違うかと」
アレックスが口を挟む。説明態勢に入った彼に、ホッと息をついた。
後は彼が良いようにしてくれるだろう。
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