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◆ 10・魔王の救出(中) ◆

 生贄の館とやらは、驚くほど薄い警備体制だった。

 地下に向かって伸びる階段の前には、三人の槍持ち警備兵――それも、誰かに呼ばれて一人が走り去る。恐らくはアレックスの陽動が効いているのだろう。


「お前、左な」


 外套にすっぽりと身を包んだルーファが、言葉と共に飛び出る。

 慌てて私も駆けだす。

 作戦も何もあったものじゃない。兵が槍を構え、突き出す穂先を反転で躱し裏拳一発。続けて足を払い、喉元に拳を一発。

 隣で、カエルの腕に締め上げられて気絶する警備兵の姿。



 殺してないでしょうね??



 さっさと地下に向かって降りていくカエル体のルーファを追いかける。

 足音を殺す事すらせず爆走するルーファについていく私。所々にかけられたランタンのお陰で光量は充分だ。



 実際、スピード勝負よね。さっきのアレックスの話からも、町ぐるみって事になるんだろうし? どれだけ早くエイベルと合流できるかが鍵ねっ。



 行き止まりまでひたすら下っていけば、どんどん涼しくなっていく。

 一番下までたどり着き、突き当りを壁伝いに歩けば、いくつもの木戸が等間隔に並んでいる。恐らくは牢たる小部屋だろう。

 木戸の下には少し隙間があり、皿の載った盆が出ていた。


「エイベル、……先輩っ、モニーク」


 声が響かない程度の大きさで呼んでみれば、すぐに返事があがる。


「ココだ!」


 スライ先輩だ。

 声のした扉に取りつき、扉の閂をルーファが『フォティア』の一発で壊す。中にはお探しの二名と魔王が一匹。


「エイベル……!」


 ぐったりと寝転がった弟に駆け寄る。彼の下には先輩たちの外套が敷いてあった。



 ちょ、……すごい熱! 触ってるこっちまで火傷しそうな程じゃない、人間じゃないレベルで発熱してるんですけど??



「どうしてやればいいのか……熱が下がらない」


 先輩が漏らす。

 モニークも部屋の端に座り込んで物憂げな視線を向けている。


「エイベル……、力を使っていいわ。一発ドンとやっちゃってよ」


 うっすらと目を開けたエイベルは、瞬く。


「どう……やっ、て?」



 どうやって????



 ルーファを見上げれば、彼は呆れたように溜息をついた。


「今代の魔王に呆れかえるぜ。おい、お許しが出てんだ。分かってんだろ? 何をすべきか。とっととヤって来いよ」



 何? 何だか、何かが……ズレてるような?



 フラリと立ち上がるエイベルが自分で自分を出し軋めるように体を折り曲げ、ヨタヨタとドアに向かう。


「エイベル?」

「……やること、わかってる……」

「と、ても、そうは、見えないんだけど?」


 弟は振り返りもせず、歩みを進める。手を貸そうと立ち上がった私に、ルーファの言葉。


「この二人、連れて出るんだろ。こっちに手を貸してやれ。女の方はケガしてるぞ」

「え? モニーク、ケガしてるの?」

「足を捻っただけよ」


 肩を貸す私に倣って、先輩も何か言いたそうではあったが黙って反対側に回ると、肩を貸した。



 しまったっ、今のルーファはカエル姿だからスライ先輩からしたらアレックスって事で!



 誤魔化す必要を覚え、言葉を探すも短い時間の事だ。

 扉の外から足音が響く。甲冑らしき金属の擦れる音もだ。



 な……っ、もう衛兵が?!






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