◆ 30・希望 ◆
自分の服を全て脱ぎさる。
靴もだ。
そうして身に着けていたものをジッと見つめる。
あれだけ大声を出して誰も来ないのだから、監視員すらも置かれない僻地――もしくは必要のない場所かもしれない。
すでに声が枯れそうなくらい大声を出したし、騒いでみせた。
切り出したような大きな一枚岩のドアにはもタックル済みだ。
せめて着替えていたら……!
宿屋に着くと同時に寝落ちた私は残念ながら令嬢的衣裳ではない。一枚布のワンピースは言い方を変えれば貫頭衣であり、鋭利なものなどない。いくつかボタンがあるくらいで金属に付随するものではないし、旅の最中という事もあり、紐で縛るタイプの歩きやすい靴だ。
アレックスに渡されたショールとて同じで、一枚の布でしかない。
下着に関していえば、淑女の嗜みコルセットとて紐で締め上げるタイプ。
使えそうな物は、ワンピースのボタンと靴裏、コルセットのホックね。
石牢とはいうものの、所詮は一枚岩でもないのだ。作り自体は煉瓦作りと変わりはない。石と石の合間に使われた『のり』に当たる部分を削り、石を外して行けば脱出は可能だ。
必要な物を乱暴に引きちぎり、壁を見上げる。
上部に空いた穴からは外光が漏れている。時折、砂も零れ落ちる。
そこを地面の高さと設定するなら、あまり下方の壁を壊せば部屋自体が土砂に埋もれる可能性もある。
あの周辺から、体が通るくらいの石を外して滑り出れば……。
ワンピースとショール以外を身に着け、四角い部屋の隅に向かって駆けだす。
三角跳びには自信がある。右の壁を蹴り、同時に左の足を繰り出す。交互に壁を蹴った所で、風を呼ぶ。
「〈 アエーラス 〉」
風の属性を身に纏い、更にスピードを上げる。
天井付近まで駆け上がり、空気穴らしき例の空間に手を伸ばした。
足を引っかける場がない為、ぶらんと手の力のみで体重を支える。気を抜けば、砂で手を滑らせそうな程に不安定だ。
くっそ……っ。
ココで落ちて死亡なんて、あまりに馬鹿らしい死に様すぎるっ。
視界が暗くなった気がした。
いや、気じゃない!?
反対の端から採光が狭まっている。
「な……っ?」
何かが――枝だ。枝が詰め込まれている。次々、枝が敷き詰められ、幾本かは下に向かって落下していく。
これ、……まさかっ?!
次々に詰められ、穴が狭まっていく。
暗くなる部屋。
そして、私の手など見えないかのように細かな枝がザクリと――落下する体。
嘘でしょ……、ココって……。
背中から落ちた私は呻き、せき込む。ジンジンと痛む指先は、おそらく枝に刺し破られ血がにじんでいる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……ヤバい……!!
ここ、ココ……、ココはっ、釜、なんじゃないの?!?!
祈る対象など、もうどこにもない。とうに神など不在、天使は高みの見物、家族は信用ならず、友人は遠い異国、近場にいる元婚約者に戦う能力はなく、魔王は金の亡者。
……アーラ……、アーラ!! 起きてアーラ!!!!
共に生きる、運命共同体に向かって叫ぶ。
「起きてよっ、アーラ……!!!!」




