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◆ 26・サソリとカメ(前) ◆

 そして目の前にいるのが、サソリです。

 巨大も巨大、大人一人の大きさはある二つのハサミを見つめる私が意識を保つのが精一杯だ。本でしか見た事がない生物ながら、真っ白な体躯である事を鑑みれば原寸ではないのだろう。

 十中八九、モンスターだ。



 私、夢を見てるの……?



 汗すら干上がる暑さに、砂だらけの地面。

 砂漠に入って一時間すら経っていないが、不快感は最高潮だ。

 乾燥した風に交じり細かな砂が服の隙間に口にと吹きかかかってくるのだ。頭から被ったショールを口元にまで引き上げてもまだ、砂はどこからか侵入している。

 自分の状態に意識が向いていた事もあり、最初はサソリの存在に気づかなった。

 いや視界には入っていた。

 それらは巨石かと思って意識の外だっただけで、全容が見えてきた時には遅く――現状、引くも進むも恐怖しかない。

 モンスターたちは、時が止まったように。



 何よ、ここ……。



 アレックスの話から想像しておくべきだったのだ。

 エイベルの視線の動きから予想しておくべきだったのだ。



「何体いるのよ……」


 零れ落ちた言葉は質問ではない。だが、几帳面な他メンバーが「二、四、……七匹だ」や「七匹かな」や「七匹ね」と答える。

 本当に要らない情報だ。

 ちなみに、全員ひそやかに小さく呟くような声だ。

 これだけ大きければ餌に困り、飢えるのも当然。大地の生物全てを食しても空腹が止む事はないのではないかとさえ思う。

 もちろんソレらが大げさな考えだと私も分かっている。

 だが衝撃すぎる光景だ。



 これを、殺さずに何とかするって?? どうやってよ?!



 視線に抗議の意味を含め、アレックスを見る。

 彼はサッと視線を逸らした。

 エイベルが背後で馬上に立ち上がる。


「え、……べる、待って。ねぇ、アレックス、なんでアイツら動かないの? もしかしてこっちのモンスターは平和主義?」


 それならわざわざ喧嘩を吹っ掛ける必要はない。


「サソリは一度食べれば、次の食事まで期間があっても、代謝を下げて力を温存する事ができるんだ。今はそういう状態って事だと思うよ? あと多分、すでに餌が猟場に入ったと認識してるとも思う」

「じゃ、何で向かって来ないの?」

「……もっと近づくのを待ってるんだろうさ」


 スライ先輩が小声で補足する。


「オネーサマ、やっていい?」

「……う、……ん、いや……エイベル、分かってると思うけど……」

「うん。足、おとす」



 足……を、切り落とすの意味ね?!



「ソレって許される範囲……?!」


 私の問いにモニークが大きく頷く。


「我々の進行を阻まないようにする事が目的ですから。敵の命大事に、で……お願いします」

「……わかった」


 地面にトンと軽やかに降り立ったエイベルは動かないサソリに向かって歩いていく。




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