◆ 20・父の言葉(前) ◆
お父様が間に入ったパターン……。
あれは何時の記憶だろう?
◆◇◆
鶏の鳴き声と共に目を覚ます。
もみがらに塗れた身体は、最初こそ痒くてたまらなかったが慣れている。
この家畜小屋に隠れ住んで、1ヶ月になる。
父はここで『時を待ちなさい』と言った。必ず良いようにしてやるから『じっとしてなさい』と。
豚と同じ飼料を食い、同じ水を飲む。
彼らは案外綺麗好きだった。餌と間違われて足を食いちぎられそうになった時は焦ったが、今はうまくやれている。
「……どうしてこんな事に」
何度目ともしれない呟き。ここには英雄も王子助けに来ない。父の報せを待つだけの道しか残されていない。
「……誰か……っ」
これは今までの私、人生への罰なの?
数回の朝の後、父がやってきた。
「帰っておいで」
かえる?
「でも……神官が、……を」
言葉にならない私に、父は軽やかに笑った。
「言ったろう? お前は私の血を分けた子だ。何度でも救ってあげるって」
それは嘘だ。
私のこのループする運命からは助けられないし、今回だってたまたま間に合っただけだ。
「偽、聖女……だよ、私……。もぅ……このままココに、隠れて……隠れ続けて……生きてたぃ……」
家畜と一緒で……、朦朧とした頭ででも、死にたくないって思う。この気持ち、可笑しいよね……でも死ぬのはもっと疲れるし、痛いから……だから……。
父の顔を見る勇気もない。
さぞかし呆れたろう。今度こそ見限ったかもしれない。
「逃げてみるかい?」
驚き、顔を上げる。父はいつも通りの柔和な表情のままだ。
「逃げるのも相当な努力がいるけれど、やってみる価値はあるね。偽聖女がいるように、偽ヨーク嬢を用意する事も、私には容易い」
「いいの……? お父様にとっては、マイナスじゃないの?」
父は驚いたように目を見開き、続いて大笑いした。
何? そんな可笑しな事、言った?
「偽聖女の時点で充分マイナス。今更だねぇ」
謝るべきかもと口を開く。
「お父様……」
「いや、いいよいいよ。父様、啓教会とはいい関係を築いてきたし、これからも手を取り合える範囲はとっていく予定だからね」
「私を逃がしたら、その予定も崩れるんじゃ……」
それでも、逃げたいわけだけど……。
「愛する娘よ、良くお聞き? 挿げ替えられない人間なんていないんだよ」
「どういう……?」
「大丈夫。お前が好きなだけお逃げ。その間くらいは持たせてあげよう、痛みの恐怖よりも解放を望んだら、……また、やり直したらいいよ」
やり直す――私のリスタートを分かっての発言ではないだろうが、それでも胸に沁みた。
◆◇◆
あの時の、あのセリフは……もしかして、リスタートの事を言ってた?
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