◆ 15・布石(中) ◆
「どう責任を取る気よ! あんた達が失くした私の荷が、一体いくらすると思ってるの?!」
理不尽に怒鳴る私。対するは数刻前までお世話になっていた船長だ。
当然荷物は全部あるし、失くした物はゼロだ。だが、途中の騒動で荷の一部が海に落下したのも事実。船を預かる船長としては言葉に窮する所だろう。
アレックス、私に人目を引く役目を振るなんて……っ。確かにコレはエイベルに出来ないわ!
アレックスが忍び込む間、私は注意を引き付ける事になっている。かつての性悪令嬢時代を思い出し、事に臨んでいるお陰で、周囲の目も私にガッツリ向いている。
船の通常仕様として乗せるべき魔法士数は守っていたのだから、序盤は船長側も強気で出ていた。船員の中には実力行使で黙らせようとした不埒者もいた。
彼らはエイベルの制裁に遭っている。今や船長側は謝罪一辺倒となっている。
難癖をつけるお嬢様と、異常な強さの弟分が無茶を通しているのだ。警邏が駆けつけるのも時間の問題だろう。
行きつく先は犯罪者……って事にならないようにしなきゃ、ね? アレックス早くして……。
「で、どう弁償してくれるのかしら?」
我ながら嫌な態度だ。
弁償なんて出来るはずないし……。
「弁償の必要は感じませんね」
そうそう。する必要も……!!
私の心の声が漏れたのかと思った。
声はモニークの物だ。
慌てて振り返れば、悠然と微笑む歌姫の姿。
「チャーリーさん……荷物、全部ありましたよ」
ヤバい……!!
途端、周囲の温度が下がる。何か言わねばと言葉を探す私に、彼女はクスリと笑った。
「という事にしておきましょう? チャーリー。お互いの為に……ね? 船の皆さんにはお世話になった事ですし、この問題は互いに忘れるべきかと」
「そ……そうね……。え、えぇ、そうね。確かに、命があっただけでも、充分と言えば充分だし? 今回だけは、見逃してあげようじゃないの……!」
視線を逸らし、気弱に流される。
マズいマズい! アレックスがまだ戻ってないのにっ、どうするどうする?!
「ところでチャーリーさん、アレックスさんはどちらに?」
……ま、ず、い!!
「知らないわ。買いたいものがあるって分かれたのよ」
表面上は取り繕えたと思う。彼女は「そうですか」と呟き、船長の前に立つ。
「一応、忘れ物がないか船内を見てもいいでしょうか? 落ちた物は仕方ないと分かっています。それでも、未練……ですかね。最後の確認に……」
憂いを帯びた歌姫の顔に、船長も頷く。
マズいがすぎる!!!!
「ま、待って! そういう事なら私も!」
船長の面倒臭そうな目。
対応差を感じるも、彼はエイベルをチラリと見て、再びの乗船する許可を出した。




