◆ 14・布石(前) ◆
青々とした海を見下ろし、私は深いため息をついた。
自称『魔王の力そのもの』さんには、無事お帰り願えた。
どうやら魔王の言は絶対らしい。文句は視線のみで素直に消えてくれたのでホッとしたし、エイベルには二度と『例の神に付随する名前』は口にするなと言い聞かせた。
意志を持つ力……聞くだけでもヤバそうな気配しかないし。
「オネーサマ、さっきの白いヤツだけど」
「名前はシロにしましょ」
「うん。そのシロだけど。……たぶん、あっちがなるかも」
「ん? 何に?」
いつになく言い淀む弟はそれっきり黙り込み、本の読み聞かせへと戻っていく。エイベルの声はいつも通りながら、かすかに沈んでいる気配はある。
私たちはそのまま、平穏を享受した――次の騒動まで。
◆◇◆
私たちは夕陽の中、西大陸最大の港町カウセに辿り着いた。
先輩の機転のお陰で航海は順調ながら、数回の襲撃には遭った。しかも恐ろしい事に、全てイカである。
船から降りた先輩とモニークは、荷物を椅子代わりに座り込んだまま微動だにしない。結界を張る魔法は精神力勝負だ。疲れ切っている事は襲撃されるたびに気づいてはいた。
途中からはアレックスも参戦していた。
「とりあえず、宿取ってくるわ。アレックスも休んでたら? 宿自体はどこでもいいでしょ? エイベルと行ってくるから」
「……ボクも行くよ。途中からの参戦だったし、まだ余力あるから」
断る必要もないので、三人で探す事にした。
多くの船員と客があふれる大通りへと出れば、両脇には市が立っている。
「チャーリー、イカの襲撃だけど、明らかに誰かが刺客として送り込んでると思うんだ」
やはり彼なりに話す事があって、時間を作ったらしい。
「移動先にピンポイントで出てくる以上、刺客は近くにいると思う」
「それってモニーク?」
「彼女は、結界を張っていたから違うと思うんだ。おそらく船に例の儀式部屋があると思う。海の上では逃げようがないから辿り着くまで詮索はやめていたけど。後で調べてこようと思うんだ」
え、危なくない?
「無事に中継ポイントの町に着いたんだし、放っておいても良いような」
「砂漠に入ったら逃げ場がないからね。ただでさえ環境要因が良くない中、更なる危険を重ねる事は避けた方がいいと思うんだ」
「……でも、あんた一人でどうする気よ」
アレックスは平然と宿の一軒へと入っていく。
慣れた手つきで予約をし、来た道を戻る。先輩たちを休ませてやる場所を確保した以上、戻るのは当然だ。戻った後の事を考えれば、私がすべき事がどちらなのか分からない。
先輩やモニークを監視するべきなのか、それとも――。
私が並び立つと、彼が困ったような笑みを浮かべた。
「ごめん、チャーリーもついてきてくれる?」
そっちか。
「しょーがないわね。正確にはエイベルの力を借りたいんでしょ?」
肩を竦める。
だが、彼は首を振った。
「いや、君だよ。……彼の判断能力には問題があるから、ボクには制御できないよ」
図らずもアレックスの言葉は、先ほどのエイベルの言葉と同じ響きを有していた。
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