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◆ 13・力の下僕(後) ◆

「呼び出してない。何で出て来た」


 エイベルが私に言われたまま言葉にする。


「……『名』を口にされたではありませんか。力ある声には魂が宿る。『名』という識別は絶大です。拾い上げ、すくい上げられるのです。そうしてワタクシは降り立った……この地に。望むと望まざると、貴方様はワタクシを求められた」


 エイベルが眉根を寄せ、私を見る。



 うん、エイベル。私も分からないわ。



 想像するに、私やアーラを堕天させた呪文――言葉は、天使や悪魔にとって特別な意味合いを持つ物で、口にすればどちらかが反応するのだろう。

 カエルの時は天使が、今回は悪魔が。それぞれ別の意味を持ち現れたというわけだ。


「エイベル、何を求めてるのか聞いて」

「だから、まずワタシに話しなさいよ」


 呆れたように言う白装束。

 それでもエイベルが聞く。


「何の用?」

「……ですから、ワタクシは魔王猊下の『力』、そのものです」



 力、そのもの?? え、力って意思あるの!?



「それで?」


 戸惑う私に反して、弟は平然と問う。


「ワタクシを吸収する事で、貴方様は完全なる『力』を手に入れられるのです」



 それって……吸収されたら、コイツ死ぬようなもんじゃないの? 平気なの?



「さぁ、魔王猊下。ワタクシを……!」

「いらない」

「……はい?」


 弟は私を指さす。


「オネーサマが来たからココに来た。シツモンされたから答えてた。力もマンゾクしてる」


 力を求めているか、と問われれば私はYESだ。魔王を『そこそこ』覚醒させる為に、現状行動している。城を手に入れる事も、その一環だ。



 この白装束が力なら、城に行く必要もないような?



 だが、エイベルは明言した。


「帰れ。メイワクだ」


 白装束が息を呑む。同時に私もだ。



 なんて事を言ってくれるんだ、勝手に!



「貴方様は……いや、……悪役令嬢は『力』を求めてココに来たのですよ? 顔を見れば分かります」


 促されたエイベルの目が、私を見る。


「も、もちろん!? あんたが強い事は分かってるのよ!? でもほら、ちゃんと大丈夫かってトコは、ほら、私、ほら、見てないし? だから、ほら、これはその、えーっと……試験よ!」

「シケン?」

「そうよ! あんたの力が充分かどうかの……ま、まぁ、白装束男から力を貰うかは、そのうち……そのうちね? 今はまぁ、別にいいんだけど……」


 必死で取り繕う私に、彼は肩を竦めた。


「オネーサマ、コレを手に入れたら……」

「うん?」


 珍しく彼は言い淀み、視線を彷徨わせ、ポツリと漏らす。


「セイギョ、できない……、なる」



 そ、それなら……いらないわね!?



 私は即座に、慈愛深く微笑む。


「エイベル……無知な姉を許してね」

「ムチ?」

「エイベル、彼にお帰り願って?」

「分かった」


 私たち姉弟の気持ちは、ありがたい事に一致していた。


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