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◆ 12・力の下僕(前) ◆

 闇の中に、スゥっと現れたのは白装束の男だ。

 顔には仮面――目と口にだけ丸い三角の穴が空いている。

 気味の悪さに、思わずエイベルの肩を掴んだ。


「オネーサマ」

「な、なに?」


 離せと言われても離す気はない。


「コイツの言ってるコト、わかった?」



 ……うん、そうね? あんた、そういう子だわ!



「えぇ勿論よ。つまり『すっごく闇生物』って事よ!」

「なるほど」


 姉のメンツは保てた。


「で、ヤミさんは? オレに何の用?」

「我が君、貴方様は力を求めていらっしゃったのでしょう」

「違うよ」


 サラリと返すエイベル。

 相手はあからさまに、含み笑いを漏らす。


「ふふ、隠されずとも良いのです。ワタクシには分かります」

「分かってないし」



 うん、分かってないね。



「それと意識せずも、力を求めていらっしゃるのは分かります」

「力はジューブンだよ」

「では、我が君。何を求めていらしたと?」

「なにも?」


 この問答へのツッコミ役は私しかいない。だが喋るなと言われた相手だと思えば、なるに任せるしかない。


「力の解放にいらしたのでしょう? 何故、隠すのです?」


 エイベル心底理解できないとばかりにため息をついた。


「ナニ? オレ、オネーサマが来たから来た。理由はそれだけ」


 白装束は黙り込む。

 否が応でも説明しろとばかりの圧力を感じる。



 いや、こっち見ないで! 喋れません!!



 そっと顔を背けた私にポンと手を打つ音が聞こえた。


「あぁ……当代の悪役ですか」


 先程とは似ても似つかない冷めた声だ。


「それで? 何を求めてココへ?」



 コイツと喋るなって事よね、アーラ? それでいいのよね?!



「今以上の力を求めたのは貴方ですか。いかにも人間が考えそうな事ですねぇ? すでにある物では満足出来ず、どこまでも求め、際限はない。愚かしい生物」


 視線は私を捉えている。

 目は合わずとも、ヒシヒシと彼が私を注視しているのが、分かる。


「さぁ、答えなさい! オマエの求めるモノを持つ存在、それがワタシです!」


 降りる沈黙。


「……あの、声に出して貰えます? 口は使えますよね?」



 ごめん、無理だ。



 せめて私は、手を使いバツを作った。

 ダメだなのだ。私は医者が止めろと言えば止める人種なのだ。

 命は大事だ。

 事このように先が見えない謎展開時は判断を難しい。

 だが私にはアーラという純粋無垢な元天使がいる。彼女が『止めておけ』と言うからには従った方がいい。


「いったい、どういうおつもりか! ワタシを呼び出しておきながら、会話すらしないとは!!」


 エイベルの耳元に顔を寄せ、内緒話のポーズを取る。


「エイベル、今から言う事を聞くのよ。『呼び出してないんですけど、どうして出てきた』って」

「いや、普通にワタシに言いなさいよ!!」



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