◆ 10・時系列の為の行動 ◆
「船長に魔法が使える人間をピックアップしてもらった。これから俺はそちらと連動で船を守る」
戻ってきたスライ先輩は開口一番、今後の方針を定める。
「エイベルにはマストの天辺、見張り台にいてもらって、それ以外を俺たちが結界を張る。エイベルは結界外から敵対生物を撃滅。いいな」
流石スライ先輩、行動が早い。
「先輩、魔法要員って私も?」
「いや、お前は入れてない。お前の父から『可能な限り、娘を温存し運搬するよう』要請されている」
私は荷物か!
ってか、どういう意味よ。温存? 温存しないといけない、温存すべき何かがある、来るって事よね?
「お父様……いったい何を」
「俺たちも詳しくは聞いてないが、行先はヨーク領の一つらしいじゃないか?」
「え、飛び地?」
「お前の曾祖父の領地だったか?」
大貴族の中には他国に所領を持っている場合がある。それらは飛び地などと呼ばれてはいるが、手に入れた方法は様々だ。
ってか、廃墟な城が目的地だと思ってたんだけど?
魔王の居城確保に送って欲しいとは父も言わなかったらしい。『設定』を受け入れる。
「そうね。私も詳しくは知らないけど……」
先輩たちも私の言葉を最後に話を打ち切る。
エイベルが折れたマストを片手に、空いた手を上げる。
「何だ? の前に、お前が吹き飛ばした余波で荷の半数と客数名が海に落ちた。助け出す人件費を考えて今後はうまくやれ」
「あら? 虎に『優しく殺しなさい』なんて命令できないのと同じよ。この子の良さが損なわれてしまうわ」
先輩とモニークの言い合いが始まるも、彼はマストの太い幹に指を食いこませて立っている。折れたマストを本来あった位置に定め持っているのだ。周囲には金具や縄などを持った船員たちが総動員で補修補強している。
これが終わるまで、出港は無理だろう。
止めどない二人の言い合いに、エイベルが割って入る。
「オレはオネーサマのゴエイ。だから、オネーサマも上に」
マストを見上げる彼に慌てて私も割り込む。
「いやいや、あんたならすぐに下に降りてこれるでしょ? 大丈夫よ……ほ、ほら、結界の中にいるんだし?」
「ザコの紙クズなんか信用できない」
別に高所恐怖症じゃないし、高い所は好きだけど……流石に、ね? 揺れる船の天辺なんて揺れ倍増じゃないの? しかも見る限り……柵ぶっこわれてるし!
「そうだね、チャーリーは上がいいかも」
「何でよ!」
アレックスの言葉に思わず怒鳴る。
視線は雄弁だ。
分かるわよ? 私が死んだらゼロに戻るんだから生き延びてもらわないと困るって事でしょ。確実な手が一番って言いたいのよね、了解しましたぁ!
「……分かったわよ……」
日記を読んで貰うのに丁度いいかもだし……。せめて本来の軸……魔王側、悪役側の軸を乱さないようにしないと。
箱庭刑の脱出を考えれば、天使や世の理のように存在する魔王側の時系列は無視できない問題だった。
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