◆ 9・時系列と突発事項 ◆
「ん」
短い返事と共に始まる落下。
目の端で床を蹴り跳ぶエイベル。同時に彼の衝撃で、船が傾ぐ。必死で吸った息と共に衝撃――覚悟していた以上の痛みが、私から五感全てを失わせた。
目は沁み、思わず飲み込んだ水も咳き込みそうなほど辛い。
〈……リー、チャーリー……!〉
意識がぼやけて、今どこで何をしているのかさえ遠のく。
息、苦しい……。
〈チャーリー!!〉
息が……どうして……?
〈チャーリー! 起きて……っ! しっかりしてっ〉
元天使の叫びの意味が分からない。
何を、騒いで……。
漏れる息が水泡となって下へと降りていくのを不思議な気持ちで見つめる。
〈チャーリー! 水だよっ、ココは水の中だよ!〉
み、ず?
〈ウミだよ! ウミの中!〉
……うみ、海……っ、海! そうだ、落ちたんだったっ!!
ゴポリと漏れる空気。
ヤバい……! 上、上は?! あっち????
口から洩れた空気が下へと流れる様に、あちらが出口なのだと気づく。
必死に水を掻くも、自重が私を沈ませる。焦れば焦るほど、息は苦しく、空気が漏れ出る。
もう、ダメ……っ。
最後に考えたのは、船旅の服は布地の少ない物を着用すべきという事。
◆◇◆
「チャーリー……!」
水も滴るイケメンが私を覗き込んでいた。
これがルーファの顔じゃなかったら、もう少し喜ばしい気分だったかもしれない。悲しいかな、ルーファの残念っぷりを知ってるだけに、ときめく気すら起きない。
「アレックス、イカは?」
思ったよりもしっかりとした声で問う事ができた。起き上がってみれば、マストの折れた船の甲板には死屍累々の様相。生きてはいるが船員も客も転がっているし、船や荷の破損も多く見受けられる。
「エイベルが、吹き飛ばした……よ」
吹き飛ばした?
「オネーサマ、ごめんなさい」
日光を遮って立つエイベルも水滴を落としている。
「強くなぐったら、とんでいった」
アレックスの内容を補填するように付け加える。
うん無理、今は考えたくないわ。
えーっと、今、話しておくべき事は……?
先輩とモニークは船長らしき人と話し込んでいる。
「アレックス、このイカ騒動ってどういう事だと思う?」
「イカは前回の方が大きかったし、おそらくはチャーリーの予見に当たる存在は前回の方だと思うよ? 時間軸的にもね。何より、人間の結界が効いた事が理由かな」
「でも、イカが何体も出るなんて……」
彼は逡巡する。
「そうかな? チャーリーが知らないだけでいた可能性はあるよ。それに……先輩を消す事が目的なら、追加で発注された可能性も。ただそうなると、まだ気が抜けない状態って事になるけど」
「それ……また出るって事?」
「可能性はあるよ」
今度は私が黙り込む。
旅に際して悪漢と戦う事は想定していたし、普通に事件に遭う事も考えた。だが、何体もモンスターの相手をするなど考えてもみなかった。
「それよりチャーリ―」
顔をあげる。
「どこもケガはないの?」
「あんた、人工呼吸してないよね?」
「してないよ! むしろ途中まで泳いでくれたから、ボクは引き上げるだけで……安心したよ」
泳いで?
〈およいだ!〉
お、おぅ……初めて、あんたに礼を言いたい気分だわ。
〈どういたしまして〉
照れたような気配を醸し出し、アーラは朗らかに答えた。
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