◆ 2・戦いの序曲(中) ◆
「な、に……言ってるんです、お父様」
突拍子もない上に、理解できない言葉だ。
「城なら、買えばいいじゃないですか!」
「自分で稼いだわけでもないのに、流石は私の娘」
誉め言葉なの?! それ?
「お父様、エイベルにはまだ早いかと?! 城とか軍勢とか……子供すぎますし?」
「おぉ、愛する娘よ! 自分の役目を忘れたのかい?」
父は演技じみた大仰な態度を取り、それから呆れたように肩を竦めた。
「聖女の覚醒、魔王の半覚醒。それが悪役に割り振られたお前の役目だろう? だが現実は後手に回り、聖女は身動き取れず、勇者すら選定できていない。双方向に作用するからには、動かせる方からアプローチするしかないさ」
神殿に捕まっているフローレンスは勇者選定ができるような状態ではない。
魔王の覚醒段階を引き上げれば、聖女側も覚醒が促される? 確かにお互いに刺激しあうとは聞いてるけど。
「ドコの、取ってくる?」
「エイベル……!?」
「オレのボスは、オトーサマだから。取ってこいって言うなら行く」
父はゆったりと拍手する。
「いいね、それでこそ息子にした甲斐があるよ。実はすでに選んであるよ。仕事が進めやすいように手筈は整えて置いたから」
「お父様!?」
我が父ながら、狙いが全く分からないっ。
「身支度を整えたら、庭においで」
「じゃあ、オネーサマの用意がすんだら起こして」
私の用意が遅い事は嫌というほど理解している彼は、再びベッドに転がる。
城を手にする事に一体なんの意味があるっていうの?
「このままでいいです。それで、お父様はどこの城を奪えと言ってるんですか?」
「魔王の城と言えば、古城に決まってるよ。海を渡り、西の大陸にある大砂漠」
それって国外じゃないの!!!!
「地図は護衛に渡してあるよ」
「護衛!? 魔王に護衛?!」
「道先案内人と、言った方が良かったかな? 地図その他に必要な物資も用意してある。後は皆でうまくやりなさい」
父に案内されるまま庭へと出る。
そこにはスライ先輩とモニークの姿があった。
なんで……っ、この二人がっ?!
モニークはスライ家を潰せと言った反組織の人間だ。スライ先輩とモニークが並んでいるだけでも、異常事態だというのに、一緒に旅までするというのだ。
ホンット、お父様ってこっちのメンタルぶっ壊してくるわねっ!!
〈チャーリー〉
久しぶりのアーラの声。
あんた今までどうしてたのよ! 完全に無視してたよね?!
〈……ごめんなさい、眠る時間が増えたの〉
寝てたの!? 私が大変な時に!!
〈うん……〉
彼女は黙り込む。
オリガはアーラが消えるのも時間の問題だと言っていた。もしかしたら不具合の一つが『眠り』なのかもしれない。
「娘、情報はとても大事な物だよ。だけど時には、行動が身を救う事もあるね。これは、お前に課せられた『任務』にとって、ちょうど良い旅になるんじゃないかな?」
「そう、でしょうか……?」
父の薄ら笑いを見れば、おのずと答えは出る。
父はこの旅の最中に、反組織から命じられた任務を遂行しろと言っているのだ。
スライ先輩を殺せる場を作ったって? そういう事ですか、お父様……。
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