◆ 28・隠された本(後) ◆
何十冊も読んで目がシパシパしてきた頃、一緒にいる存在を思い出した。
ちらりと見れば、エイベルも本を見ていた。読んでいるわけもない。ここにある半数以上の本が、私ですら読めない異国の言葉や古代言語で書かれているのだから――。
硬い床に仰向けに転がり目を閉じる。
側では彼が本をめくる音がしている。
「あんたは何を見てるの?」
「本」
「それはそうだろうけど、見ても分かんないでしょ」
「わかるのだけ見てる」
うっすらと目を開き、彼の手の本を見る。
古い本だ。背表紙に連なる文字は神殿の奥にある大岩の部屋やモンスター製造の場所で見た物に近い。つまり私には分からない内容だ。
「あんた……ソレが、分かるの?」
驚き問いかければ、彼は書面から顔もあげずに答える。
「そう言った」
「……古代語よ、ソレ? ちなみに何の本?」
「日記」
重要な書籍ばかりが並ぶ書庫で? 日記?
「誰の日記よ? ってか、それホントに読めるの? 何で? 魔王だから?」
エイベルは読んでいる本の背表紙を見せる。書かれているタイトルすら読めない文字だ。
「私は読めないわ、なんて書いてるの?」
「……『じつろく・オリガのつれづれ日記』って書いてる」
「……え? オリガ? オリガの日記????」
なんでオリガの日記が?! いや、そういえば……っ、前にオリガに……!!!!
唐突に記憶が繋がる。
そうだ、『アデレイド戦記』の外伝を読めって! でも外伝なんて聞いた事もなくて……知らなかったし。それに、どうしてオリガの日記がココに……、まさか日記が外伝に当たるとか?
ゴクリと唾を飲み込む。
「エイベル、あんた古代語が読めるなら探してほしいんだけど。『アデレイド戦記・外伝』ってタイトルのモノはない? あと! その日記も読み聞かせして」
「……わかった」
「分かるのは古代語だけ?」
エイベルは少し考えて、首を振る。
「前から、読めるのと読めない本があって……読めるのは古い本だった。今の、言葉はむつかしい」
「エイベル、ソレどういう意味?」
彼はまた少し考えるように黙り込んで、周囲を見て回る。棚を足場に――器用に上へ上へと登っていく。
「教えてもらわなくても、わかる言葉あった。それがバレて『マオー』ってなった。それで皆いなくなった。変わった本が読めるから、たまにお金はもらえた。これも変わった本」
古代語の本を変わった本としてしか認識していないらしい。
「変わった本を読めるヤツは少なくて、オレともう一人しか読めないって言ってた」
魔王は生まれながらに前時代の言葉を理解してるって事?
魔王と聖女は分かたれたモノだと考えれば、『もう一人』は聖女の可能性が高い。まさか前世の記憶があるとは私も思わない。だが、魔王と聖女のシステムがそういうものである可能性はある。
彼らは生まれながらに多くの決まり事の中に囚われている。
「つまり、私もお金を払ったら読んでもらえるって事?」
「……オネーサマはオフクロと同じだから、タダでいい」
「私、あんたの親じゃないですけど? ……まぁ何となく、言いたい事は分かる。家族には無料奉仕、大事な事ね」
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