◆ 15・第三王子(前) ◆
「お嬢様、最後の確認です」
ミランダの神妙な声に、私も答える。
「キャメロン殿下、十歳、好きな物は肉、好きな事は動く、嫌いな事はジッとする、嫌いな物は肉じゃない物」
朝日を浴びながら馬車に乗り込んだ私は、ミランダの質問に答えた。
ついにこの日が来てしまった。すなわち、『新・婚約者候補』との顔合わせというやつだ。ここ数日は怒涛の毎日だった。
生き残る云々よりも、侯爵家令嬢としてやるべき事とやらに終始し、鬱になりかけた。勿論、それなりの煙を元に大きな火事レベルで噂は飛び交い、心配したライラが訪ねてくるほどだった。
残念ながら第三王子との顔合わせ対策として、父たちから講義を受け続けていた為に応対はできなかった。
「お嬢様、これは顔合わせではなく面接です。何度言えば分かります?」
まぁ、ですよね……。
「お嬢様は第一王子の婚約者でした。傍目にも仲は良好だった二人が急に絶縁状態ですよ? 家同士の争いに突入ですよ? 誰だって避けたい案件ですよ、お嬢様との婚約話なんて」
でしょうね……。
「第三王子には選ぶ権利があります。これが第二王子ならば良かったんです。元々第一王子と敵対してますからね。ですが、第三王子は完全フリーな自由枠。わざわざ、お嬢様なんかと婚約する事で危険に飛び込む必要はありません。もちろんヨーク家の協力は得られますが、同時に第一、第二王子との……」
「分かったってば! 分かってるって、ほんと……!」
第二王子の後ろ盾とヨーク家は犬猿の仲の上、彼には婚約者もいる。父曰く、ある程度の出来レースではあるらしいが、詳細までは知らされていない以上、この婚約はまとめなければならない。
第二王子キャメロンは随分古い記憶の中で――記憶している程度の間柄だ。正式の対面は今回が初と言っていい。
「キャメロン殿下はとても聡明な方ですので、メリットを聞いてくるでしょう。お嬢様との婚約で彼が得られるメリットを明確にお伝えしてください」
メリットって言われてもね……提示できる物なんてヨーク家の財力とかそんなものくらいしかないのよ。私個人にできる事って何がある?
思う所は山ほどあるが、全てを飲み込む。
その間にも馬車は着々と王城に向けて進んでいた。
◆◇◆
そして、約束の時間――金髪碧眼の少年がテーブルに座っていた。
そう、テーブルだ。
だだっ広いテーブルには各種の甘味が並び、しっかりとした茶会の様相を呈している。遠巻きにメイドたちが居並び、顔を伏せている。
ナニコレ……。
テーブルに座っている王子は年相応の十歳児で、とても聡明には見えない。顔もウチの弟に比べれば、並みの顔立ちだ。
それでも侯爵家令嬢として取るべき道は一つしかないのだから切ないものだ。
「シャーロット・グレイス・ヨークと申します、キャメロン殿下。本日はお時間を……」
「だるぃわ」
今、なんと?
話は遮られたし、良く分からない言葉が聞こえた気がする。およそ、こういう場にふさわしくない言葉だ。きっと聞き間違いに違いないと、再度挨拶をしようとするが――。
「婚約っしょ? いいよ、婚約、しようしよう。いつ終わるとも分かんないけど、してやOK、じゃ、そういう事で、ご苦労様でしたぁ」
ちょ……、待って……これ、ほんとに……十歳児????
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