◆ 30・足掻く者たち(後) ◆
「せ、……先生っ……、試練先生っ」
第二王子ヴィンセントが振り返る。
あぁ、そういえば私って適当な事を言って……コイツの試練先生になったんだった。
「今こそ力を合わせて、魔王討伐を!」
「まおう? ……ああ、あー、あのね?! この竜は魔王じゃない……でも上級悪魔で、えーっと中ボスくらいはあるかな?」
慌てて勘違いを訂正しておく。だがどう考えてもヴィンセントに勝てるはずがないし、お互いの政治背景から手を組むのはまずい。
悩む間にもルーファは蝙蝠のような羽が広げ、一際高い咆哮を上げた。
堪らず耳を塞ぐ。
全員が蹲る中、ヴィンセント王子と私を抱くミランダには響いた風もない。
「お嬢様、降りてください。アイツには前回の恨みがありますからね」
言葉の丁寧さの割に、私をポイ捨てするミランダ。したたかに尻を打つも文句を言う暇はない。彼女は竜に向かって突進していた。
繰り出す拳が、竜の腹に当たり、轟音を立てる。
衝撃の余波が私にまで地震のように響く。
続く連打。
明日の敵と思えば複雑な気分にもなるが、勢いは良いしこのまま押し切ってほしい所だ。
〈ダメ……、ルフス、来る〉
え?
ルーファの口がパカリと開く。
火種がチラリと覗く。
まず……ぃっっ!!!!
「ミランダっ!!!!」
叫ぶと同時に、ルーファの頭が振れる。ミランダが飛び退るも、タイムレスで轟々と炎が吐き出される。
いや、これ、ミランダだけじゃ……っ?!
駆けるミランダを追い、顎を上げるにつれ炎の範囲が広がっていく。
慌てて走り出した私たちの背後に迫る炎。
スライ先輩が駆け込み、私たちと炎の前に立ちふさがる。ミランダが滑り込む。
「〈 スコターディ・フィーポース・エクサーリエクスピィザ!! 〉」
黒い球――それは闇のカーテンのように炎との間に広がる。
それは先ほど、私が唱えようとした呪文だった。
炎がぶち当たり、かき消されていく。
〈チャーリー……光を、フォスなら〉
光の呪文って事? でも、竜は属性が効かないって先輩が……。
〈フォスを〉
……それなら、効くの?
答えないアーラに、覚悟を決め厳かに呟いた。
「〈 フォス 〉」
私の周囲が輝く。
それは私の不得意な属性。
だが、本来は何もかもを消し去る光だ。属性が効かないのなら光だって、と思うが元天使が言うのだ。何かはあるのだろう。今は信じるしかない。
ルーファの炎が止むと同時に、私は駆けだす。
「〈 フォス 〉」
再度唱え、薄く不安定な光を纏う。人間の拳などたかが知れている。重ね掛けで光を強くするしか思い浮かばない。
竜の尾が叩きつけるように私に迫る。早すぎる一撃に、食らう覚悟をするも、ミランダが割って入り蹴り飛ばした。
……っ。
壁に激突し破壊する尾。
「〈 フォス!! 〉」
繰り出す拳は、まっすぐに腹に命中する。
「グゥ……ゥ、ッ……!!」
竜の呻き。
立ち上る黒い煙が周囲を覆いつくした。
視界を失って慌てる私の前に赤い目が目の前に生まれた。
「約束は守った」
言葉と共に闇に消える目。
世界が晴れた時には、床に倒れるカエルと瓦礫が残されていた。
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