◆ 28・悪魔と王子(後) ◆
身の丈三メートル強、横幅も長く棘が無数に突き出た尻尾を入れると五メートルはありそうだ。食堂が縦にも横にも広くて良かったが、テーブルも椅子も料理も惨憺たる有様だ。
逃げまどう生徒の中、竜を見上げる私は、さぞかし毅然として見えるだろう。
こんな所で『感情を押し殺す』淑女教育が役立つとは思わなかった。
竜とかないわ……。
ただ唖然としてるのだ。
確かに私は長い人生、何度も学校に通った。このループから抜け出そうと勉学に勤しんだ事だってある。
その結果、分かった事といえば努力では埋められない現実もあるという残酷社会だ。仕方ない、私には勉学が向いてないのだ。今後も、そういった全てはカエルにぶん投げる予定なのだから問題ないが――。
こうして竜を前にして、改めて思う。
残酷世界が残酷するぎる……。
もちろん分かっている。相手は只の勇壮な竜ではなく知人悪魔なルーファだ。そしてヤラセ試合だって事も互いに理解しあえているはずだ。
ルーファは尾を震わせた。
トゲトゲ尻尾は床にぶつかり、簡単に叩き割られる。
いやいや、ルーファ……分かってるよね? ヤラセ試合だって、分かってるよね??
数度スナップする尻尾はどんどん床を破壊するし、なんなら壁にもぶち当たって壊している。
ルーファが吠える――割れる窓ガラス。
大音響だ。耳を塞ぐも、鼓膜がクワンクワンしている。
いや、マジで……分かって……、る、よね????
うん、これはアレよ……いわゆる、アピールよね……アピール。俺様は悪い竜だぜーっていう……そういう……。
「チャーリー!」
駆け寄ってきたのはライラと、スライ先輩だ。
「おいっ、これはどういう事だ! アイツはお前の……っ」
「先輩! 周りの目がありますから声を……」
ライラにたしなめられて先輩は口を噤む。
「いわゆるぅ……その、アレよ……ヤラセ試合する感じに……」
ライラ達は顔を見合わせ、頷く。
いかにもヤラセなら放置でも大丈夫とばかりの顔になっている。
……でも、見るからにヤラセ感ないというか……ルーファ本気じゃないよねってドキドキしてるんだけどっ。
〈チャーリー……ルフスと戦うの?〉
元天使の声に希望が開ける。
そうよ、ルーファの愛するアーラがこっちにいるのよ!!!! ヤラれる心配はないわね? いやいや、待て待て、アイツ……前に私の事、一回殺したよね????
……いや、でも今はアーラの意識もしっかりある状態なわけで……うん、愛に生きるルーファを信じるしかないな?!
「そ、そこまでよ!」
とりあえず言うべき事を叫んでみた。
ピタリと止まるルーファ。
絡み合う視線。
心なしかさっさと先に進めと言われている気分だ。
「それ以上の暴挙は、このシャーロット・グレイス・ヨーク……と、仲間が許しません! ……えー、っと、る、……あく、魔竜!」
さりげなくライラと先輩も共に戦う設定を盛り込む。ルーファという名は今後の為にも伏せることにした。
ルーファの呼称も決まった以上、次の段階へ移行する。
ビシッと人差し指を突きつけ、ふんぞり返る。
「魔竜、勝負よ!! 皆を殺すのはその後にするのねっ」
「チャーリー……一言多いです」
ボソリとライラが呟いた。
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