◆ 25・立場 ◆
ミランダに言い含められていた二つの質問に関してはアッサリと終わった。
すなわち『あんた大丈夫なの?』に対する妹の答えは『普通です』である。
「フローレンス様! 本当に大丈夫なのですかっ? こんな男など気にせず思うところを仰ってください! 気兼ねなどする必要はありませんとも!! 私がすぐにでもこのクソはぶち殺して助け出しますのでっ」
「いやいや、落ち着いてよ……ミランダ」
ぶち殺されるのは困る。
その後の展開を想像するに身震いしかない。
「で、フロー……あんたっていつから、何されてきたの?」
フローレンスはまたも小首を傾げる。
「侍従長から聞いてませんか?」
ババァが!?
チラリとミランダを見れば、首を振る。
侍従長といえば、規律を重んじる年嵩の女だ。五十代にさしかかった彼女はいつも厳しく、私も苦手とするところだった。
だが、忠誠心は強く、父の威光に背くような人ではななかったはずだ。
「お姉さまたちが喧嘩をなさっている時に、お呼ばれしまして、そのままこちらに」
どうして、あの人が……。え? ここにフローが入れられているのはお父様の差し金ってこと? どういうことよ?
「ちなみに、ここでの扱いってどんなだったの? 具体的にお願い」
「具体的……そうですね? 孤児院にいた頃のような生活で、不便はないですよ?」
いやいや、あんたのいた孤児院って牢屋だったの??
「お嬢様には分からないでしょうね。孤児院と違って自分のスペースを確保できるだけ、こちらの方がマシな勢いでしょうよ」
「マジで?」
「ええ。ミランダの言う通りです。過ごしにくさはないですし、あ、……でも、何度も同じことを聞かれるんですが、ちゃんと答えられないのが心苦しいです」
「……どんなことを聞かれたの?」
困ったように眉をさげて、彼女は答える。
「誰を『勇者に選ぶ』のか、です」
なるほど……教団側はやっぱり第二王子ヴィンセントが勇者とは思ってないのね。思っていたらこの質問は可笑しい……なら、どうしてヴィンセントに『自分は勇者』と思わせているのかって問題が出てくる。
少なくとも勇者の選別方法が聖女によるもので、このフローレンスこそが聖女であることも理解していることは分かった。
さて、どうする?
ヨーク家として裏からフローレンスと会う段取りをつけているのだ。このまま連れ出すことはできない。
この場所に捕まっていると分かった時によぎった不安は、かつての私の世界線をフローレンスが受け継ぎ踏襲するのではないかというものだった。だがそれも、立場が違うお陰で回避されているようだ。
私は悪役だけど、フローレンスは本物の聖女だから……最終的に、教団を敵に回すことはないって感じなのかも。
「フロー、他には?」
フローレンスは首を振る。
無言で佇む神官に目をやり、頷く。面会は終了でいいだろう。聞きたいことは聞けたし、これ以上は今どうにかできる状態でもない。
「フロー、もうちょっとココで頑張って」
「お嬢様!?」
「ええ、お姉さまっ」
非難と了承の声。
この環境をグレードアップすることさえ、私一人ではできそうもない。それはミランダだって分かっていたはずだ。
私は妹に背を向けた。
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