◆ 17・反組織の試験(後)◆
空が見える広い試合会場には数組の傭兵や冒険者がいる。
安全措置としてなのか、隅の方には治療師の証たる腕章をつけた集団もある。
その中の二人となった私たち姉弟は、偽アレクサンダーを前に立っている。モニークは先ほど、用事があると姿を消した。
「エモノは何がいい?」
武器は壁際にズラリと各種取り揃えてある。どれをつかってもいいのだろう。
だがエイベルは答える。
「イノシシ」
うん、分かってないね。それ食べたいものだよね?
「あんた武器は? 素手でいいの?」
「……いーよ」
「だ、そうです。ではよろしく」
通訳を終え、少し離れた壁際に立つ。偽アレクサンダーは長剣を壁から取って、数度振り、エイベルの前に戻った。
弟はわずかばかり、腰を落とした。
空の青さは平穏そのものだというのに、私にまで二人の緊迫感が伝わってくるようだ。
「オレは、バカだけど……なんでかキモチは分かるんだ」
急にエイベルが口にする。
「アンタは、オネーサマにイヤなコトをしたから……」
偽アレクサンダーが抜き身の剣を手に、地面を蹴る。
『消えて』
それは言外の言葉だったかもしれない。
確かに声を聞いた。
私の脳裏にまで叩きつけられた言葉は、そのままの力を発する。彼の手が振るわれた剣より早く、男の首にかかり投げ飛ばした。
壁に激突する音。
広場の喧噪が消え、誰もが言葉を失っている。
偽アレクサンダーが――壁で血を噴いている。
どこから、なんてレベルを超越してダラダラと地面と壁を濡らしている。
え……?
エイベルが拳を作る。
まだ攻撃を加えようとしているのだと気づき、更に愕然とした。
彼が歩む。
一歩。
一歩。
一歩と。
いや、……まず、い……よね?
と、止めなきゃ、もう死んでる? わかんない? 止めなきゃ、ヨーク家姉弟の暴挙って噂が、いやいやそうじゃない、生きてるならすぐに蘇生、あのざまで生きてる? わかんない。どうしよう?
混乱のあまり言葉を失って、自分が何をすべきか結論がでない。
その間に、エイベルは辿り着く――男の下へ。
「ダ……メ、だ……! エイベル……!!!!」
私は叫ぶ。
ピタリと止まった足とむけられた顔。瞳にゆらめく金色の陽炎。
少年の姿をした怪物だ。そんな言葉がよぎる。
深く、息を吸う。
深呼吸、深呼吸、そして私が一歩を踏み出す。
「エイベル、試合は生かしておいてこそなんだけど? まだ生きてる?」
毅然と口にできたと思う。
淑女と貴族のプライドがこんな所で役に立つとは思わなかった。
「え? そー……なの?」
エイベルの瞳がパチリと瞬きをし、陽炎が消える。
「どうしよう……息は、あ……、もう、止まりそう」
私は大声で叫んだ。
「怪我人です!! 治療師を!」
すぐに広場の数人が駆け寄ってくる。治療師が駆け寄る姿も視界に入れ、私は震えそうな自分を律していた。
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