◆ 2・同盟不安(後) ◆
「えーーっ、逃がしちゃうんです?」
心底残念だとばかりに声をあげるヘクター。「一人くらいイイですよね?」などと言い募るのを無視して、追い出すよう命令した。
ヘクターは根が犯罪者なので仕方ないが、不服げな雰囲気はエイベルからも伝わってくる。
「見せしめに、一人」
などと恐ろしいことを口にしている。
魔王は魔王ってこと?
「あんたたち、良く聞きなさい! 護衛ってのは守られる側を第一に考えるものよ? 私の心労を減らすのも護衛の立派な仕事! イイ感じに私を尊重し『守られている』って実感させる、それが守られる側への配慮ってもんよ!」
根が素直なのか――エイベルは驚いた顔をし「そっか」の一言。ヘクターも「そうなの?」と言いながらも黒装束たちの縄を切って回る。
我が家に死体を散らかされちゃたまったもんじゃないわ。
〈チャーリー……あの人〉
どの人?
〈大きい人、チャーリーを殺そうとしてる〉
え?
一番最初に心を動かすことに成功した人物だ。ランディーという弱みで呆気なく堕ちたはずの人間が何故と思うと同時に自由にしてはいけないと慌てて目をやる。
しかしヘクターが縄を切り終えた所だった。
まずいっ!!
それは一瞬の出来事。
相手の手が揺れる。
視界がブレる。
瞬きの間だ。
死……っっ!!!!
真っ白な頭は何も考えられない。
何が起こったのかも分からない。
「オネーサマ」
上から降る弟の声。
視線を少し動かすだけで、彼の顔が見えた。
「どうする?」
何を……?
呆然としていた頭が再度動き始め、段々と理解が始まる。
弟に横抱きに抱えられている。
「えい、べる……何が、起きた?」
恐らくは『あの男』が何かをしたのだ。
「オネーサマの頭に穴あけるトコだったから、よけた」
穴……。
「はいはーい、追記です! 毒針ですよ、毒針! あの速度で投げられての退避としては充分ですねぇ! 多分俺だったら、足ひっかけて転げさせてーって方法くらいしか取れなかったかも? もしかしたらお姉さんの顔には毒が掛かって爛れてた可能性もありますねぇ、アッハッハ!」
ゾッとした。
ヘクターがでも、犯人がでもない。エイベルが、だ。
私はミランダと戦った事がある。悪魔もどきになったミランダと、だ。気合いさえ入っていれば『悪魔でもなんとかなる』レベルでホッとしたのを覚えている。
もちろんルーファが倒せると思った事はないし、いつか会った魔王だってそうだ。それでも彼らとの利害は目に見えて一致してきた。
エイベルは、立場的には私の上司になる……。この子が私を不要と判断したら……。
それは初期のミランダ恐怖にも等しい。どこからいつ、どんな風に死が突きつけられるか分からない恐怖が、またも付きまとった瞬間だ。
「ありがとう……エイベル」
表面上は穏やかに――嬉しげな笑みを浮かべて答えられたと思う。
彼は私を下ろして、一つ頷いた。
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