◆ 27・ほだす(中) ◆
事態が動いたのは、その夜の事だ。
ベッドに入ろうしていた私は、弟の乱入を受けた。荒々しく開かれた扉はバウンドしているし、その勢いのまま飛び込んできた彼は、私を無視してバルコニーへの窓にとりつく。
夜着姿の淑女対応としては悲鳴だろうが、彼には私の護衛という役割を授けている。
私は素直にベッドの脇に隠れた。
「エイベル、何があったの?」
囁く音量では聞こえないのか、エイベルはこちらを見向きもしない。
「エイベルっ」
「人、入って来てる」
入って、って……侵入者?!
一気に肝が冷える。
陽の落ちた夜に招かれざる客が現れたなら、犯人の目的は非道いモノだろう。
「な、んとか、できるよね?」
「うん」
なんと頼もしい!!!!
「じゃあ、そのままでよろしく」
言い置いて、彼の右手が燃え上がる。
ゴウゴウと音を立てる炎、パチンと火花の破裂音。
なんで炎?!
炎は燃え広がらず、掌にとどまっている。
「……イヤな予感しか、しないんだけど……」
「灰が出るくらいにしあげる」
「いやいやいや!! 待とう?! ちょっと待とう!!!!」
「なに?」
「本当に悪い人か分かんないし?! 悪い人だったらやっちゃってもいいけど、普通の客の可能性だってなくはないし?!」
彼は炎をチラリと見て、首を振る。
「夜中で、こっそり入ってて、ココに向かってきてる、……音からわかる、かなり大きくて重い男」
そんな事まで分かるの?!
考えてみても、該当人物はいない。社交界関連で考えれば数人思いつくが、この不敬すぎる訪問スタイルを取りそうな関係者はいない。
私はエイベルに明言する。
「いいわ、やっちゃって。ただし!!!! 私が顔を見た後ね!」
「……めんどくさ」
エイベルは招き入れるように大窓を開ける。
生ぬるい風が吹き込んでくる。
緊張から唾を嚥下する感覚が心身ともに焼き付いていく。
一体、誰……今までの人生でそんなヤツに命を狙われた事ないけど? これって今回の人生が今までよりも大きく動きすぎたから、帳尻合わせのように命を散らす仕組みで送られてきた刺客なんじゃ……。
〈誰に?〉
そりゃ、……運命ってやつよ。
〈ウンメイ?〉
……バカみたいな言い分だって分かってるよ!! でもそういうもんなのよっ、人生なんて山あり谷ありっていうけど、どっち側も悪いコトばっかりなんだから!!!! 少しは平穏がって思った瞬間に、地獄に突き落とされる事件しかないのよ……。
私の運命はそういうものなのよ!!!!
〈よく、分からないけど……大変な人なんだね?〉
「運命は人じゃないです」
「は?」
思わず声に出したアーラへのツッコミに、エイベルが首を傾げる。慌てて「自分会議中」と言えば、心底気味悪そうな顔で私から目を逸らした。
「まぁ、いいけど……顔、見るんだっけ。一発目ふせぐから、その後、見て」
いっぱつ、め????
エイベルの背後に強烈な光が見えた。
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