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◆ 26・ほだす(前) ◆


◆◇◆



 結論、私に母性はなかったって事だ。

 弟が『できて』から三日が過ぎている。妹が行方知れずと言う名の『幽閉中』でも、日々は事もなし――穏やかに過ぎている。

 父の誘拐騒動も伝達ミスという事で処理され、行方不明の妹も父の仕事の手伝いで移動中とされている。



 お母様ったら、よくエイベルを引き取ったものよ。隠し子と疑っても可笑しくないと思ったのに……いや、穏便に片が付いてよかったけどさ。

 また、こっそりストレス貯めてて殺人やら何やら起こさないか心配になるのよね。



 見る限り母とエイベルはうまくいっている。私の方でもすっかり喧嘩友達のノリになっている。

 乏しい表情ながら、言いたい事は明言し軽率に行動するタイプである事が分かってきた。



 気を抜くと『魔王』って忘れちゃうわ。



 カトラリーが大きな音を立てる。

 弟が取り落とした小ぶりのフォークを見つめ、声をかける。


「休憩にする?」


 救いの声に聞こえる事は計算の上だ。我が家の一員となった少年のやるべき事など決まっている。

 まずは行儀作法からだ。

 この三日というもの、ずっと専属教師によるハード訓練が続いている。今もティーセットを前に、取り組んでいる。私といえば、そんな四苦八苦している『魔王様』を眺めながらのティータイムである。

 現在ミランダは『つなぎ』を付けるために不在。その間の身の安全は弟が追う事になっている。


「いい」

「意地をはる事ないでしょ。ティータイムくらいゆっくり食べなさいよ」

「うるさい」


 ヒクリと頬が引きつる。助け船を殴り壊すのが弟のスタイルだ。

 教師が顔を顰めるも『姉弟』の会話に口は挟まなかった。

 

「あんたねぇ……。ったく、好きにしなさい」


 溜息をついて放置を決める。


「あんたは、……ちゃんとできるんだ」


 だがポツリと呟く少年の声を拾った。

 こんなものは何でもない。身に沁みついているだけのもので、それらは当たり前の事だ。だが思い返してみれば、子供の頃は苛立ちのあまり、カトラリーを行儀作法の教師に投げつけた事もあった。


「そりゃ、ココで十六年も過ごしてるからね」



 本当はもっとだけど……。



「あんた三日じゃないの。私に張り合おうったって無駄よ! 三日でマスターされちゃこっちの立つ瀬がないわ」


 少年は奇妙な顔をした。

 眉をギュッと寄せ、口を引きつらせている顔――笑みの失敗かもしれない。私は、傍に立つ教師に視線をやり、手を振る。

 意味は『出ていけ』だ。

 正確に読み取った教師側が何を思ったにせよ、肩書を尊重し退出してくれるのだから楽なものだ。

 扉が閉まるのを見てから、小さなケーキを手でつかみ上げる。


「今だけよ」


 ニヤリと笑って口に運ぶ。大口を開けてパクリと頬張れば、しっとりとしたスポンジ生地からは爽やかな柑橘の風味が押し寄せる。

 きめ細かいクリームの甘味がいっぱいに広がり、いつもより多幸感が増す。

 チラリと見れば、少年も真似て口に運ぶ所だった。



 同調と共感。一歩、近づいたわね?

 悪いけど、私には安売りする優しさなんてないのよね。



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