◆ 6・フローレンスの秘密(前) ◆
父の書類を見たところで、私に分かる事は少ない。
パッと目を通しただけでも政治関連のものばかりだ。カエルへの手紙のように隠しているメッセージがあったとしても、これでは探しようがない。
「見つかったら、何て言い訳するんです」
「昨今は危険が多いので部屋番をしておりました、とでも言うわ」
ミランダに返して、机の下にある三段の引き出しにも手を伸ばす。
ん? 鍵?? 部屋に鍵かけてないのに、ココには鍵をかけるなんて……絶対重要でしょ!
「お嬢様、木を隠すなら森ですよ。……あからさま過ぎて、そんな所には求める情報があるとも思えませんが」
言いながらも、指先をとがらせ鍵穴に突っ込むミランダ。
なんて便利なんだ! もはや魔法の手ねっ、私が泥棒する折はあんたを相棒に指名するわっ。
カチリと軽い音と「開きましたよ」の言葉。
勢い込んで中を覗き込めば、同じく書類に塗れている。
「売買契約書……なにこれ、……んー……ん? んんん?」
目をパチリと瞬く。
売買契約書の内容に顔が強張る。
「どうしました? 随分な数ですね?」
真剣に書類に目を通し始めた私に、異変を察知したのかミランダが声をかけてくる。
運命共同体にも等しいミランダには知ってもらっておいた方が話は早い。私は読み終わった書類を手渡す。
「人身売買、ですね? 子供を買っているようですが……って!!」
現状見つかったら首が飛ぶ場面だ。彼女は慌てて己の口を抑えた。
悪魔ミランダはともかく、本当の意味で首が飛びかねない内容だ。
「これはフローレンス様の……」
声を落とす彼女に頷く。
「うん、数十人の……フローレンスを買った記録だね」
古い物から、つい先月の分まである。
お父様、一体何をして……。
〈チャーリー、誰か来る……〉
「お嬢様、足音です」
天使と悪魔の忠告は、ほぼ同時――私は我に返る。
どれくらいの時間、書類に向き合ったか分からない。
「こ、この部屋にっ?」
声をひそめるも、語気は荒くなる。
「それは分かりませんが、可能性は大きいですね」
どうする?! どこに隠れる!
ここは四階。
加えて隣室への抜け道もない。
ミランダは手馴れた様子で火を消していく。途端、煙臭さが鼻をつく。
暗くなる室内。
彼女はそっと窓を開けた。
月の細い夜だ。
「口を塞いでください」
「は?」
「早く」
慌てて両手で口を抑える。
同時に浮き上がる体――浮遊感、柔らかな感触。
「……っ?!」
ミランダが私を横抱きにしたのだ。
暗闇を滑るように窓に向かうと――。
待って?! 待って待っー……っ!!!!
前動作なしに飛び降りた。
頬にぶつかる風の強さが、続く衝撃をも表している。
ギュッと目を閉じて、口を塞ぐことも忘れ彼女の胸に取り縋った。
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