◆ 3・父の封書(前) ◆
夕焼けの空の下、満面の笑みで父達に見送られる。
ミランダと二人、馬車が目指す先は王宮である。
切ないわ……。
どんなに胡乱な目で父を見ても、結局はその権威に縋る身だ。我儘を言おうとも父の最終決定からは逃れられない。
過去の逃げ道は出奔だけだったのだから――。
「何かな、これ」
渡された封書をヒラヒラと揺らす。ミランダは肩を竦めた。
「分かりませんが、殿下はいらっしゃらないのに……あの男に見せるので?」
そうなのよね。カエルに届け物って言ってもルーファだし、意味ないのよね。
封書は随分と薄く軽い。
好奇心と、手渡す相手の不在が背を押した。私は乱暴に封を開ける。
二つ折りの紙が二枚。
流麗な父の文字。
〈チャーリー、それはチャーリーの物じゃないのに〉
お父様が、カエルに何の悪巧みを持ち掛けてるのか気になるし?
〈でも、勝手に見るのは……〉
カエルはいないんだし、勝手に見ても怒らないわ。
〈でも……〉
あんたは善意の声?! ちょっと黙ってて!
「お嬢様、人の手紙ですよ」
「ミランダ……あんたもなの」
「は?」
怪訝な顔をするミランダから視線を逸らす。
指摘しながらも気になるのか、彼女は紙を見つめる。
「で、なんと書いてあるんですか?」
「気になるの?」
「私の立場を考えて頂ければ当然かと。現在人間を辞めていますが、立場を忘れたつもりはありませんから」
つまり、まだまだスパイって事ね。
手紙は、本当に只の手紙に見えた。
季節の挨拶から始まり、娘の養育関係を未来の夫へ報告といった形をとっている。
王子であるカエルと役持ちの父だ。
社交場でいくらでも会う機会がある者同士のやり取りにしては、違和感がある。
会った時に話せば良いし、私とカエルは定期的に会ってたし? わざわざお父様が報告するような事、ある?
「暗号でも入っているのでは? ちょっと袋の方を見せて頂いても?」
ミランダも手紙を覗き込み、不思議そうに言う。手紙を全て手渡せば、封蝋から筒内まで丁寧に見ていく。
やがて彼女は、糊付けされた部分を剥がした。
「やはりこちらですね」
得心がいったように微笑む。
差し出されたノリの部分はテカりながらも、文字が見て取れる。
「えーっと『センプク』と『クルウ』かな? あとこっちは『チンニュウシャ』ね」
ミランダが、ため息をつく。
「恐らくですが、闖入者があり、潜伏計画が狂ったのでしょう」
この場合、『誰が』じゃない。『どこに』が問題よ。
カエル……あんた何してたのよ? このタイミングで暗殺されかけたなら、この手紙に関連してるでしょうよ!?
「カエルとお父様が何を結託して、しでかそうとしてるのか、知らなきゃだわ」
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