パウダー・スノウ
季節は12月25日。
ふと、目が覚めた少女は。
降り続いた雨が粉雪の様な物に変わったのを窓越しに確認すると、目を輝かせながら外へと飛び出した。
「おい、こら! 部屋に戻れよ!」
青い顔をした少年が止めるのも聞かず、少女はパジャマの恰好で空を仰ぎ、口を開ける。
「あむあむあむ、全部、食べちゃうぞー!」
「……部屋に戻れって、言ってるだろ!」
少女は聞こえないかのようにそのまま前のめりにダイブし、白銀に染まった地面に対しても口を開いた。
「はあ~、もぐもぐもぐ~! 気持ちいいな~、綺麗だな~!」
「……」
地面でうつぶせになった少女は、そこで初めて、少年へと顔を向ける。
「……ホワイト・クリスマスだね」
「……全然、違うだろ」
笑顔を浮かべるパジャマ姿の少女の言葉を、ガスマスクと防護服を付けた少年が、否定した。
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20XX年、世界は、核の炎に包まれた。
それから1年間、炎の雹が降り注いで。
それから次の1年間、針の嵐が降り注いで。
それから次の次の1年間、黒い雨が降り注いで。
そして、それから次の次の次である今日から、灰の雪が、降り始めた。
……まだまだ、シェルター内に、食料は、ある。
まだまだ、命を長らえさせることは、出来る。
けれど……。
……もう、この世界は、壊れてしまったんだ。
もう、地球は、呪われてしまったんだ。
少年の、絶望にも似た回想を、知ってか知らずか。
「……ねえ、雪だるま、作ろうよ」
少女は、放射線に汚染された粉雪の様な物に全身を任せながら、そう、言った。
放射能まみれのこの世界に、パジャマで飛び出すような愚行を犯したせいで。
これから、死にゆく少女。
彼女の、そんな、スッとぼけた提案に。
「……そうだな、一緒に、作るか」
少年は、苦笑しながら、そう、呟いた。
だったら、これは、邪魔だな。
少年は……ガスマスクや防護服を脱いだのであった。
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……それは、ある、クリスマスの日のこと。
少年と少女の笑い声は、どこまでも遠く響いていたのに。
……いつの間にか、粉雪の様な物の降る音に、かき消されて……。
いわゆる、メリーバッドエンドでございます。




