表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある英雄の末路

作者: あっさむ

 そのゲームのβテスターの第2弾に選ばれたのは僕が中学三年生の春のことだった。


 世界ではVRやAIなどの技術が目覚ましく発展し、ゲームはコントローラーを操作する時代から、自分がその身をもってリアルな体験する時代へと大きく移り変わっていた。

 その中でも一番注目されていたのがこのゲームで、何百倍という倍率を勝ち抜いてβテスターに選ばれた時は神様に心底感謝をした。


 ゲームの世界はいわゆる『剣と魔法の世界』というやつで、他のプレイヤー(冒険者)や特殊なAIが搭載されているNPC(現地人)と一緒にクエストを進めていくというのが大まかな流れだ。

 多彩なスキルや様々なタイプに別れた職業、それに付随する武器·防具·従魔達、圧倒的なグラフィックは勿論のことだけど、一番の売りはNPCの多様性とそのシステムだった。


 従来のゲームでのNPCは決められた場所に立って、決められたセリフ(定型文)を言うだけの存在だった。しかしこのゲームでのNPCは()()()()()

 情緒豊かに会話をし、NPCの意思で好きな場所に移動もする。独自で考えたクエストやイベントを発生させることもあるという。

 一緒にクエスト進めるには()()()()()()()()が非常に重要になるという事が事前情報として伝わってきた。


 僕はゲームを少しでも有利になるように事前情報や眉唾物の情報も含めて沢山の情報を集めていた。その中で少し気になったのが、βテスター第1弾のプレイヤーの中に消息不明の人が何人かいるという掲示板での書き込みだった。

 しかしその書き込みは“信憑性に欠ける”として深く追及されることなく流されていったし、僕もゲームを実際にプレイする頃にはすっかりとそのことを忘れていた。



────────

──────

────



 初めてゲームにログインすると、自分のアバターと職業を決める最初の部屋にやってきた。アバターに関しては現実世界の姿と大きく外れることができない仕組みになっていたので、残念に思いつつ髪色を赤くするだけにした。


 それよりも肝心なのは職業で、今後の冒険に大きく影響するからと色々と悩んだ結果、『剣士見習い』にすることにした。見習いは初期の職業には必ずついていて、そこから先は職業のレベルや、自身の行動で名称が変わっていく。どんな風に変化をするのかも楽しみの一つだ。


 最初の部屋でスキルや体の動かし方についてのチュートリアルも済ませると、【始まりの街に転移しますか】というメッセージが目の前に現れる。いよいよ冒険が始まるのかとワクワクしながら迷わず【OK】の選択肢を押すと光に包まれてその場から姿を消した。



 光がまぶしくて思わず閉じていた目を開くと、そこは事前に調べていた始まりの街ではなく見慣れない神殿のような場所だった。


「ここはどこだ?まさか特殊イベント?!

 でも何か踏むような事したかなぁ····」


 なんて言いながらゆっくりと神殿の中央に進んでいくと、祭壇のような物の上に優雅に座っている女の子がいた。水色の長い髪に、ぱっちりとした黒い瞳が印象的でついうっとりと眺めてしまった。


「初めまして。選ばれし『英雄』様。

 私は水の女神サーラと申します。

 これから貴方様をサポートさせて頂きますので何卒よろしくお願いいたします」


 女の子いや、水の女神サーラはそう言って僕を見てニッコリと笑ってくれた。

 しかし僕はまだ職業的には『剣士見習い』でとてもじゃないけど『英雄』なんかじゃない。慌ててそれを伝えると、サーラは次のように説明をしてくれた。


 サーラは曰く、この場所は英雄か英雄の器のあるものしか来れないようになっていて、ここに最初に到達した人のサポートをするように『創造神』に使命を受け、眠りについた。そして気の遠くなるような時間が流れ、僕がこの神殿に最初にやってきたという事だった。


「なるほど····

 これから一緒に頑張ろうね、サーラ!」


「勿論です。精一杯サポートさせて頂きますね」



【水の女神サーラと出会いました。

 職業が『剣士見習い』から『英雄の卵』に変化しました。

 水の女神サーラがサポートNPCとしてPTに入ります】



────────

──────

────



 それからの僕、いや俺は、この世界で最強だった。サーラがサポートとしているだけでステータスが大幅に増加し、状態異常無効など信じられないような効果が付いた。『英雄の卵』という職業も、技のスキルの取得や経験値補正に一役買ってくれた。

 つまり、ラノベにあるような“チート系主人公”に一瞬にしてなることができたのだ。



 サーラと一緒に向った始まりの街では、冒険者ギルドでのテンプレ─ギルドの登録の邪魔をしてきた『落ちた冒険者』という職業のNPCを一撃で倒しギルドマスターに認めてもらう─をこなし、伝説の武器職人(NPC)と出会い装備を作ってもらうクエストを受けた。


 装備の素材を探しに森に行くと、刺客に襲われていた滅亡した王国の最後の血統だという高飛車だけど魔法の腕はピカイチなお姫様(NPC)と出会い、紆余曲折あって一緒に冒険をすることになったり、装備を作ってくれた武器職人の孫娘のドワーフがタンクとして仲間になったりと順調に仲間が増えていった。今考えても怖いくらい順調に冒険が進んでいった。



 それと反比例していくように、現実の世界がつまらなくなっていった。生活の全てがゲーム中心になっていき、家族や友人と会話をするのが、学校に行くのが億劫になってきた。

 現実の2時間がゲームの1日になることもあって、1度休み出したらその後はズルズルと休みがちになり、最終的にはずっと引きこもってゲームに熱中していた。



────────

──────

────


 少しずつ歯車が合わなくなってきたのは、クエストを進め職業が念願の『英雄』になった頃だった。長年ある国を苦しめてきた邪竜を倒し国王と謁見すると、夜会に参加をしないかと誘われたのだ。

 今まではそんな事一度も提案をされなかったから、新しいクエストかイベントだろうと参加をしてみたのが間違いだったのかもしれない。


 夜会に参加した後、このPTを抜けたいとサーラを除く他のメンバーから相談を受けたのだ。夜会で秘密裏に、この国に留まるメリットを提示されていたのだろう、これからの事を話し合いたいと言ってきたのだ。

   

 しかし、その当時の俺は今までの功績や地位に有頂天になっていて、周りが全く見えていなかった。()()()N()P()C()にそんな相談をされて頭に血が上ってしまい、喧嘩になってしまった。

 そこで好感度が下がりPTは解散、サーラと二人きりで冒険を続ける事になった。サーラは穏やかに微笑んだまま、黙って俺の後を付いてきた。



 そこからの冒険は、酷いものだった。敵のレベルは高難易度エリアに相応しく上がっているのにも関わらず、PTメンバーは足りず、装備もアイテムも不足していた。

 メンバーと別れてから気が付いたのだが、今までの戦闘での作戦の立案や指示出し、アイテム管理などは全て他のメンバーが分担してやっていた。俺はその指示に沿って必殺技(スキル)を敵にぶつけているだけの存在だった。

 レベルが高いだけで、戦闘技術が身に付いていない木偶坊だと自覚した時には、もう何もかもが終わっていた。



 クエストの数々の失敗によって賠償金は途方も無い額に膨らみ、それを清算する為にありとあらゆる物を手放していった。最後の方は自暴自棄になっていて、なんの権利書にサインをしたかも覚えていなかった。


 かつては『英雄』だったのに、今の俺は····。流れに流れて始まりの街まで戻ってきた俺は、現実逃避の為に安酒を飲み暴れ、サーラにも当たるようになっていた。それでも彼女は俺を見捨てず、ただ穏やかに微笑んでいた。



────────

──────

────



 そんな自堕落な生活をしていたある日、ふとそういえば、最近ログアウトしていない事に気が付いた。ゲームにはログイン時間の制限があり、一定時間を過ぎると強制ログアウトの警告がアナウンスされる。だが、最近そのアナウンスを見ていないのだ。


 不思議に思ってメニュー画面を開いてみると、ログアウトの文字が無くなっていた。バグかと思い、色々な機能を見ていると、信じ難いものが目に飛び込んできた。

 自分のプレイヤーネームの横にNPCのマークが付いている····



 どういう事かと混乱する中、未読になっている一つのお知らせが目に入る。ちょうど清算をする為に様々な物を売り飛ばしていた時のもので、あまりメニューを見なくなっていた時期のものだった。


【プレイヤーの権利の売却ありがとうございます。

 貴方は只今よりNPCとしてゲームに参加することになりました。

 これから先のログアウトは出来ませんのでご了承下さい。

 また、NPCには“死に戻り”の機能はございませんので、そちらもご留意下さい。


 お問い合わせ先はこちら】



 俺は慌てて問い合わせ先に連絡をしたが、そこで得られたのは無慈悲なメッセージだけだった。

きちんとした誓約書にサインをしていること、破棄できる期間がすでに終了していること。


 元に戻る方法は無いのかと絶望している俺に、1つのクエストが現れた。


【クエスト内容:『落ちた冒険者』として、冒険者の妨害をする事

 達成数:0/1000

 成功報酬:プレイヤーの権利】



 元々レベルだけは他のプレイヤーよりも高い、動揺している相手に力技で押し込んでも負けることは無かった。そこから俺は、その報酬を得るためにありとあらゆる行為に手を染めた。

 ギルド登録に来た冒険者を口や暴力で妨害したり、親切そうな顔をしてクエストに付いていき肝心な所で裏切り、死に戻りさせるなんていうのは序の口だった。少し手強そうなプレイヤーには、NPCのゴロツキやPKプレイヤーと組んで執拗に追い詰めたりと段々と自分の中の目的がすり替わっていく事を感じていた。



────────

──────

────


 

 いよいよ、次の獲物(冒険者)でクエストクリアになるという朝、いつも笑顔で挨拶をしてくれていたサーラが何処にも居ないことに気が付く。

 最近は自分のしている行為の浅ましさもあり、彼女の存在を無視していたのだが、居ないとなると少し心配になる。


「まぁいい。

 プレイヤーに戻ってからでも探すのは遅くない」


 そう呟いて、冒険者ギルドへ向った。



 ギルドに併設されている酒場で仲間のNPC達と酒を飲みながら獲物を探していると、見るからに初心者そうなガキがやって来た。キョロキョロと辺りを見渡す様子を見て、おそらくソロプレイだろうと当たりをつける。

 ─カモが現れた─そう仲間に合図をすると、そのガキの元に向う。仲間もニヤニヤと様子を見ている。


「おい、ガキ!

 お前にはまだギルドは早いんじゃねぇか??

 出直して来いよ!」


 そう言いつつ、殴り掛かる俺の姿にガキは動揺して立ち尽くしている。このまま行けば楽勝だななんて考えていると、不意にガキの体が揺らいであっさりとすり抜けられてしまった。


「くそっ、生意気な!」


 そう言って、攻撃を続けるも何故かあっさりと避けられてしまう。焦っていると、騒ぎを聞きつけたギルドマスターがやって来る。


「いったいなんの騒ぎじゃ!」

 


 ─このイベントには()()()()()()

このイベントの内容に気が付いた俺は逃げようとするものの、体の自由がきかない事に戦慄する。言葉も話すことができず、ギルドの演習場に自然と足が動き出す。


 ─もし仮にあのガキが『英雄の卵』だったとしてもこっちの方がレベルもステータスも上、慎重に戦えば必ず勝てる!─

 そう思いガキと対峙すると、ガキの後から見覚えのある姿が現れる。


【水の女神サーラが好感度減少によりPTを抜けました。

サーラの加護によって得ていたステータスがダウンします。

また、サーラの好感度減少により、基礎ステータスが初期値に戻りました。】


 ─サーラ!─

驚いた俺はサーラに声を掛けようとするが、相変わらず声が出ない。そんな俺を嘲笑うかのように、ガキに向かって微笑む姿はいつものサーラのようで、どこか異質に感じた。



 【戦闘が始まります】

 動揺している俺には目もくれず、戦闘開始のアナウンスが流れる。ステータスも初期値になり戦闘技術も無い俺は、あっという間に間合いを詰められ、ガキの一撃でHPがゼロになる。


 薄れゆく意識の中でサーラを見ると、彼女は何も言わずただ穏やかに微笑んでいた。



────────

──────

────



「サーラ、勝ったよ!

 って、どうしたの?さっきのNPCサーラを見て動揺していたみたいだけど····」


女神()()()()()()()()()()驚いたのではないでしょうか?」


「なるほど?

 女神様は一般人の前には現れないって話だったもんね!」


「えぇ、きっとそうでしょう。

 さぁ、ギルドマスターが呼んでいますよ。参りましょう『英雄の卵』様」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや感想を頂けますと嬉しいです。


 こちらは、連載作品の息抜きに書いてみました。

普段は日常系VRMMOが好きですが、思いついたのは思いっきり逆の展開で、どうしてこうなった状態です。


 連載もジャンルが違いますが、見ていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ