お父さんは無敵 ~名もなき雑草に拾われました、サナ5さい転生者です~
決戦の時だった。
魔王と勇者は指先まで闘志を満たせて、壮絶な攻防戦を繰り広げていた。
激しい剣戟に火花が散った。
お互いだけを油断なく見据えていた。
一瞬だった。
魔王と勇者の、その足で踏んでいた雑草がクパァァと大口を開けて両者を食らったのは。
地面に吸い込まれるように両者が消えたのは。
ほんの一瞬のことだった。
まだ生きているらしく、くぐもった悲鳴が地面の中から聞こえた。
それとバリリッゴリリッという咀嚼音。
「瞬間パックン、すごっ!」
私は養父の神がかった強さに目を見張った。そう、養父。いかに異世界といえど草(養父)と人間(私)に血の繋がりがあったとしたら、母なる人の趣味嗜好と遺伝子が大問題だと思う。
「おいしい?お父さん」
「うーん、大人だから筋がちょっと固い。でも目的のものは、ほら」
地面が少し割れて、中からポイポイと魔王と勇者の装備品が幾つも出てきた。
「さすがは魔王と勇者。持ち物もS級だ。サナ、勇者が守護の腕輪をしていたよ」
雑草がのびて、私の小さな腕に腕輪を装着してくれる。
「これって、いわゆる追い剥ぎ?」
「えー!?魔王と勇者が追い剥ぎに殺されたなんて外聞が悪いよ。だからこれは単なる弱肉強食。自然界は厳しいってことで」
私は広い野原1面に生える雑草を見た。
「うん、自然界は厳しい。お父さんだらけだもんね」
私はサフィリアーナ・ダリュシアス・レニアス。略してサナ。
高位貴族レニアス家の末娘、だったーーはい、過去形です。
生まれた時から転生者としての意識があったから、私を見る両親の目が酷く冷たいことに危機感をおぼえていた。だってクッキリハッキリ殺意があるんだもん。
どうやら私は高位貴族にあるまじき魔力量の低さで、家の恥だったらしい。
用心していたら、病死にして…なんて話を両親がしていて。
ダッシュで逃亡しましたとも。
家宝の1回使いきり転位陣で。
5歳で家なき子ですよ。
でも前世の人生経験と知識がなければ、無力な子供のまま殺処分されていたし。
転位先はどこかの森の中。
持ち物は食料と衣類と少々のお金。レニアス家では冷遇されていたし持ち出せるものなんてほとんどなかったのよね。
右も左もわからない暗い森を迷子になって歩いていたら、養父が拾ってくれました。
超ラッキー。
養父が教えてくれたことには、以前から私を見ていたらしい。転生者ではないか、と。
もうびっくり。
養父は家の庭に生えている雑草でした。ううん、庭にも路地にも畑にも森にも、どこにだって大陸全土に生えている雑草でした。
養父曰く、大陸全土が養父自身、養父の胃袋なのだそうです。
「えー、年齢?数万年?もう笑うしかないよね、人間が草に転生なんて。手も足もないから動けないじゃん、まさに植物状態よ、草だけに。しかも手足がないから自殺もできないんだよ、死ねないの、根っ子が少しでも残っていれば再生しちゃうのよ、俺。惰性で生きて数万年たったら、根っ子が大陸全土に広がってね~、大陸全土が俺の胃袋になっちゃったんだ~。しかも固有スキルの吸収でスキルが増えに増えて一瞬でごはんが食べられるようになっちゃって~」
全にして個、個にして全とはまさに養父のこと。全ての雑草は地中深く根っ子でつながっているのだ。
私も、誰も彼も養父の上にいるごはん。
誰か考えたことがあるだろうか?雑草を引き抜こうとしたら、逆にクパァと口を開けた雑草にパックンゴックンと食べられる可能性があるなんてことを。
もっとも養父は抜くならどうぞ、て感じで放置なんだけど。抜かれても焼かれても、大陸全土の地表と地中を一瞬で焦土にされない限り、気にもならないと言っていた。
スキルのある世界だったから養父が無限に強くなったのか。
異世界だから養父のような存在が生まれたのか。
確実なのは養父がいなければ、5歳の私は森で死んでいただろうということだけ。
それが10日前のこと。
で、今。
ろくな持ち物のない私のために物資の調達にきていまして。
ちょうど魔王と勇者が戦っていて、いいもの持っているじゃんっとパックン。
人権なんて言葉があるのかもアヤフヤなこの世界。都市内では多少の法があっても、都市外では日本人には考えられない光景が闇から闇に隠蔽されておしまい。
天災にあったと思って諦めてね、魔王様勇者様。南無南無。
「大漁大漁。超貴重な魔法鞄もあるじゃん。サナ、所有者登録を変更するから血をちょうだい」
「うん。でも魔王と勇者を食べて世界バランスとかいいのかな?」
「えー、もう何十人も魔王も勇者も食べているけれど、世界は滅んでいないから平気だよ」
さすが数万年。
なのに前世は養父も私もほぼ同じ時代の日本というのも不思議なことで。これも異世界あるある?
「サナを拾ってよかったよ。サナの前世は俺が死んだ10年ほど後だから、気になっていたマンガやアニメの続きが聞けるし~」
日本のマンガ様アニメ様。
ありがとうございます。
おかげさまで最強の養父に拾ってもらえました。
ぎゃんっ!!
狼の悲鳴が聞こえた。養父に食べられたらしい。
「またサナが狙われた~。うーん、やっぱり森での子育ては危険かな。サナは人間だから人間社会の方がいいかな?」
「だったら冒険者になりたい、テンプレ!」
「おお、テンプレ!俺も登録しちゃおっかな~」
養父の言葉とともに足元の雑草が変化した。
10センチくらいの、羽のある妖精に。
しかも超美少女。
「すごい!!」
「サナは人間種、俺は妖精種として登録しよう。妖精種は魔法の名手だから、色々魔法を使ってサナを守れるしな~」
後日、私と養父は辺境の冒険者ギルドに登録した。
そして身にしみてわかったことが、ひとつ。
名もなき雑草は無敵でした。