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転生令嬢は現状を語る。  作者: 水瀬


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11/22

婚約解消バトル、ラスト。

「……移住って、どこに……」

「この間のパーティーの時、ここよりずーっと涼しい国があるって教えてもらったんだ。子供のころからちゃんと貯金しておいたからお金はあるし、いざとなったら、そこに行こうと思ってるから心配しないで」


 まぁ、ベルンの部屋は過ごしいいけど、それだけじゃん。

 外に出たくても出られないし、ベルンと居るだけで楽しくない。

 いざとなったらあの小川に身を浸してれば何とか生きられる。

 あの時だって溺死体のように見えただけで、口と鼻は水の上に出てたし、ベルンと会うまではあれで生き延びていたのだ。

 それに、私だってもう大人。無駄に多いお小遣いもかなり溜まっているから、街に行って氷だって買える。

 無駄遣いは嫌いだけど、命がかかってるからそれくらいの経費はしかたがない。


「パーティーって、べス、いつパーティーに出たの? 僕エスコートしてないよね? 誰と行ったの?」


 急に元気になったベルンが怒鳴る。

 うるさいなぁ。


「いつって、この間の学園交流パーティー」

「え」


 またまぬけな声が聞こえたのでベルンを見たら、口をパクパクさせていた。




 学園交流パーティーはその名の通り、他の学校との交流パーティーだ。

 ちなみにこのパーティーへの参加は上位クラスに与えられる課外授業の一つでもある。

 優秀な卒業予定者のお披露目も兼ねているから、提携している他校の学生と、この国に在駐してる外交官が招待されている。

 主催は持ち回りで、今年は私たちが通う学園の番だった。


 私は上位クラスじゃないので、パーティーには参加していない。

 でも、下位クラスの私たちは、道案内とか、通訳とか、偉い人の話相手とか、所謂裏方で参加させられていた。こちらは下位クラスの課外授業だ。


「ベルンとアリスのファーストダンス、凄くよかったよ!」


 ことのほか明るい声でそう言うと、ベルンは目を見張った。


「見てた、の……?」

「おー」


 こっそりホールを覗いたら、ベルンがアリスとダンスして、仲良く談笑してるのが見えた。

 まぁ、素敵な画面でした。




――――やっぱりな、としか思わなかったけどね。




「あれは、行事だから仕方がなく」


 ぼそぼそとベルンが言う。

 いらっとする。


「ベルン、あのパーティーの意味分かってる?」

「それは……」


 ベルンの目が宙をさまよう。


「私に相談もなく、私を下位クラスにすること承諾したよね。そしてアリスをあのパーティーでパートナーに選んだ」

「べス、僕は……」

「クラスが別になればこうなること、ベルンは分かってたよね?」


 今年の上位クラスはすでに14組のペアがいた。

 私は上位クラスじゃなく、ベルンはあのクラスでは一人だった。

 普通、交流パーティーで婚約者が同じ学園にいなかったり、私のような状態になっていたら、招待客の女性からパートナーを選ぶ。


 おもてなしって奴だよ。


 でも、ベルンは同じクラスの婚約者じゃない女をパートナーに選んだ。

 アリスをエスコートした。

 他国の外交官たちの前で、王族が踊るファーストダンスの意味。

 それってどういうことかベルンがちゃんと分かっていたのか知らないけど、世の中の人はそう見る。

 それは、私も同じだ。


「私はもう降りる。ベルンとは友達。それ以上じゃない。それなのにあんな噂を流された揚句、ベルンを誰かと取り合ってるなんて言われるのも嫌。これ以上面倒なことに巻き込まれたくない」

「べス、話を!」

「いらない」


 手を前に出して、ベルンを制す。


「言い訳、キライ。ベルンはアリスを選んだんだから……その責任、ちゃんととってほしい」


 バッグから書類を出し、ベルンの前に置く。


「今すぐじゃなくていいよ。まだ時間はあるから、書類はおいて行く。覚悟が決まったらサインして」


 ベルンは真っ青な顔で私を見つめている。


「さよなら、ベルン。今までありがとう」


 笑顔で私はベルンに背をむけた。

 ベルンはもう何も言わなかった。





 追いかけても来なかった。

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