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春風が連れてきた親友

作者: 一ノ瀬 葵

「羽根は神聖なものなんだよ」

 

君が言った突然の台詞から私たちは仲良くなった。

この子は今年からクラスメイトになった女の子で、一岡花火という。


彼女はアニメヲタクで、もう10年近くは羽根がよく出てくるというアニメを応援しているらしく、そのことからこの子の中では羽根は神聖なものだったらしい。


そして、また私にっても羽根は神聖なものなのである。


彼女とは違う理由だが、私にとって羽根は神聖なものなのである。


羽根が神聖なものという人は少ないかもしれない。

体育館が神聖な場所だというのはよく聞くけれど、ラケットや羽根が神聖なものだというのは今でもあまり耳にしたことはない。

だが、しかし羽根は私にとっても神聖なものなのだ。


戸外で練習していた私が羽根をひらりと落としてしまった時、彼女がすごい勢いで飛んできて言ったのだ。


「羽根は神聖なものなんだよ。そんな簡単に外で落としちゃいけない」


と言われて、つい笑ってしまった。


「なんで外で練習してるの?」

「なんか体育館の蒸し暑い感じが嫌で」

「外の方が涼しいもんね」


その日から私にとって羽根は神聖なものになった。


そして、仲良くなってからも外で練習してるとたまに怒られるのだ。


「まーた外でやってる。羽根が汚くなったらどうするの?」

「分かってるんだけどさ」

「ほら、リンゴジュース飲みながらとかほんとありえない」


彼女は休憩中にジュースを飲んでいるだけで怒るのだ。


「休憩中くらいジュース飲ませてよ」

「なんでりんごジュース好きなの?」

「りんごが好きだから?」

「なんで疑問形なのよ」


私たちはよく笑いながら体育館裏で話していた。

それでも彼女は一緒にジュースを飲むことはなく、ジュースを飲んでる私を羨ましそうに見るだけだった。


「なんで花火はジュース飲まないの?」

「えー太るから。あなたと違って私は運動もしてないしね。アニメばっかりで」


アニメが好きで見ていたと思っていたし、きっとその事実は変わらないと思うけれど、彼女がアニメばかり見て静かに過ごしているのには理由がある気がした。


でも、私はその理由を聞けずにいた。


それは、友人と呼べる友人はたくさんいても親友がいなかった私はこんな親友とも呼べる友達が出来るなんて嬉しくて仕方がなかったからだ。


一緒に登校したり、一緒に勉強したり、遊んだり、いつもいつも一緒にいた。


母親にも、あんたに親友という存在が出来て嬉しいわ、なんて言われたものだ。

母親もどこかで心配していたのだろう。

相変わらず名前は覚えてくれないが。



そして、今でも春風が吹くと、君のあの笑顔と台詞を思い出す。何度でも。

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