成長
ジョンと呼ばれ、The Dead In The Water開幕5分で死んでしまうモブに転生した俺は、なんとかその未来を変えようと頑張った。
ほんの少し運命は変わった。結局ゾンビは発生してしまったし、犠牲も出てしまったが。
不本意ながら、俺は研究施設から本土に帰り、徐々に日常へと戻っていくことになった。
一応、スロープ社との仕事もやってはいるが、基本的にはテレワークで、しかも未成年で学校もあるので、あまりガッツリと時間を取ることができない。たまに招待される食事会には顔を出すようにしているけれども。
人工島でコールドスリープしたままのメアリーのことをよく思い出す。彼女のことはずっと忘れない。いつか必ず迎えに行くつもりだ。
スロープ社は、ゾンビ発生の事態をうまく隠蔽した。あの人工島で死んだりゾンビになったりして帰れなかった犠牲者たちは、別の場所で事故に遭ったということになっている。
民間軍事企業として、この大無人戦争時代に、肉ロボットとでもいうべき兵士たちが活躍するインパクトは、各国に大きな影響を与えた。そして、身体能力強化ウィルスによって強くなった兵士が、もっともスロープ社に利益をもたらしたのは、武力が属人化しているという側面だった。
要は黒字社員を大量に抱えた企業になったってことね。
で、俺はきちんと小学校に通い(ロリコンじゃないので、これはかなりつまらなかった)、中学校を卒業して高校に入った。
その間、俺が重要視していたことは、スロープ社での新兵器の開発だった。
もちろん、これは俺が使うというのもある。メアリーを迎えにいくためにね。
それに加えて、普通の人間たちも遠隔でしっかりゾンビを倒せるようになるべきなのだ。
おそらく、パンデミックは起こる。あれだけ奮闘したのにゾンビが発生してしまったように、それがこのThe Dead In The Waterという世界だ。
俺自身は、身体能力強化ウィルスを入れているので、マイケルの作った心肺機能強化ウィルスによるゾンビ化する心配は無い。
だが、この瞬間にも世界のどこかでマイケルが新しいウィルスを開発していたり、進化させていたり、あるいはバックについている何者かが、ゾンビを増やす計画を淡々と進めているのかもしれない。
抗う力が必要だ。
幸運にも、俺はスロープ社のリソースをある程度使うことができる。しかもそこそこいい給料をもらってね。
俺は高校生になったことで、車に乗れるようになった。ぶっちゃけ転生前は免許なんて持ってなかったので、取得には苦労したものだ。学科は楽勝だったけれど、実技がな。
さらに、自分の資産を自由に使えるようになった。今までは銀行から金を使おうにも、親の同伴が必要だったんだよね。当然、使えないわけ。ママは自分の祝い事以外に使うことをほとんど許可しない人なのだ。
正直額面はかなりすごい。まあ十年勤め上げて一切カネを使ってないわけだからね。衣食住だけ確保して引きこもってれば一生食ってけると思う。
でもそれじゃ、死ぬんだよな、俺。
あー、メアリーに会いてえ。というか俺の背、めっちゃ伸びたけど分かるんかね、彼女。
俺はまず車を買った。統括AIが入れるだけの演算能力が積んであるやつで、少しお高かったけれども、値段以上の収穫として、新しい人脈を得ることができた。
これから俺はアジトを作るつもりだ。
今も、俺んちのダイナーで使ってない倉庫が一個あったのでそこに武器を買い溜めしてはいるものの、やはり戦いが起こった時にしっかりとした拠点が必要だと思ったからだ。
こっそり動いているのだが、高校のカリキュラムは流石に小中みたいにゼロ勉でどうにかなるものでもなかったので、精神的に結構きつい。俺、一応理系だったから、社会とか苦手なんだよね。特にサメリアの歴史なんか知らんかったし。
大統領選では、例の陽気な男が当選している。これはゲームの正史どおりだ。
一体なぜ、うちのダイナーにショットガン担いでやってきたのかは不明だが、それなりの経緯もこの世界には存在するのだろう。
今日も学校から帰宅した。
のんきなクラスメートたちには肩を竦めるしかない。やれやれだぜ。お前ら、そんなだとこれからヤバいぞ。ゾンビMAX。ドラッグパーティばっかしてないで、筋トレをしろ。
俺はエプロンをして、我が家のダイナーのホールに立った。時給ゼロのバイトだ。
晩飯を食いにボブが来ていたので、コーヒーをサービスするついでに話しかける。
「よう、ボブ」
「ジョニー」
「頼んどいた件だけど、どうなった?」
「ああ、ちょうどその件でね。用地が確保できたから、週末見に行かないか。案内する」
「オーケー」
「この話、私もカネを出すよ。だから要求より大きめに場所を取った。私の部屋が欲しいんでね。キングサイズのベッドも」
俺は呆れてため息を吐く。
こいつ、女を連れ込む気だな?
「そういうことをするための場所じゃないんだが」
「本土での完璧なステルス。圧倒的秘匿のプライベート空間。これこそワンナイト不倫天国だ」
「お前全額出すか?」
そういうとボブは笑った。
「私が使っていないときに、その部屋はジョニーが使ってもいいんだぞ。あ、『先送り』したんだったか?」
「やれやれ」
こんなだが使える爺さん、ボブである。




