事変
俺はメアリーの部屋にあるベッドの上でごろごろしていた。
会った当初は無かった洋服やコスメが、収納不足でむき出しに置かれている。
彼女は自分のインテグレイテッド・デスクに向かって研究の続きをしているようだ。
まったりしていると、突然、部屋のドアが開けられた。
「やっぱりここにいた! マイケルが発見されたよ! 早く逃げて!」
入ってきたのはマリーだ。
走ってきたらしく、肩を揺らして苦しそうに呼吸している。
「落ち着け。逃げろとはどういうことだ?」
メアリーも驚いた表情でマリー見つめている。
「とにかく大変なの! 細かい説明をしている暇はないから。いい、逃げろとは伝えたから。私はこれで!」
そう言い残して、マリーはどこかへ走り去ってしまった。
「メアリーって誕生日じゃないよな。ドッキリかとおもったんだけど。一体何が起こってるんだ?」
「不明なので分かりません。研究は消えないようにデータを全部保存したので、保存したデータをダウンロードして続きができるようにしました」
「うん。じゃあ俺たちも出てみようか。逃げると言っても、この島からどうやって出ればいいんだ?」
「島から出られないので、島の中で逃げればいいと思います」
「なるほどね」
俺たちは一応用心深く居室を出た。
エレベーターは問題なく稼働しているらしい。島の発電施設は無事のようだ。
1Fから、この3Fに上がってくるのを待ちながら、俺はメアリーの手を握っていた。
周囲を見回すも、もうこのフロアには誰もいないようだ。
「遅いな」
階を示すランプは1Fを指したまま、なかなか動かない。
階段を使うかどうか考えているうちに、ようやくエレベーターが上がり始めた。
点灯していた下へのボタンが消え、ドアが開く。
「ッ……!」
俺は、エレベーターの床に倒れている男を目撃した。
頭から血を流しうつ伏せに倒れている。
「おい、大丈夫か!?」
致命傷でさえなければ、この世界なら助かるはずだ。
ドアが閉まりそうになったので慌てて「開」のボタンを押下する。
「メアリー、閉じないように開けておいてくれ」
彼女は心底驚き怯えているのかは目を見開いた状態で口元を手で覆っている。だが、はっとして外からエレベーターのボタンを押さえてくれた。
男にゆっくりと近づいて、まず手首を触ってみる。
まだ温かいが、脈がない。
「死んでる……」
この男はマイケルなのか……?
床に突っ伏している頭を、両手で持ち上げて横にしてみる。
その顔を覗き込むと、マイケルではなかった。
「テリー…… いいやつだったのに」




